杉原里美2018年8月16日18時02分
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 なぜ人は、大勢の仲間がいると、過激な言動ができてしまうのだろう。いじめ、ヘイトスピーチ、ネット上の私刑……。戦時中は、隣人同士でお互いの言動を監視し合っていた。
不寛容な空気が、今の日本にも漂っていないか。その正体に少しでも近づきたいと思い、ある大学の体験学習に参加してみた。

 「ハイル、タノ(田野万歳)!」、タッタッ。「ハイル、タノ!」、タッ、タッ……。学生たちと一緒に、
かつてのナチスドイツ式の敬礼をしながら、笛の音に合わせて教室の床を踏みならす。「共同体の力」を体感するための行進だという。
 6月、甲南大学(神戸市)で2週にわたって行われた「ファシズムの体験学習」。田野大輔教授(歴史社会学)の特別授業だ。
文学部の1、2年生を中心に約250人が受けた。受講の拒否や、授業途中での離脱も認められている。
 初日は、ファシズムの成り立ちを学ぶ。ただ、学生は発言する際はいつも敬礼をしなければならない。
最初はだるそうに「ハイル、タノ〜」とちゃかしていた学生たちも、教授が低い声で鋭く注意すると、静まった。
 知り合いと一緒に座っていた学生たちが、誕生月順に座るように指示される。それで、また「ハイル、タノ!」と行進。
周囲に知り合いがいないためか、記者の左斜め前にいた女子学生は、行進を重ねるごとに声が大きくなっているようだった。
記者も、親子ほど年の離れた学生たちと声をそろえて行進するうちに体がポカポカしてくるのを感じた。

 2日目は、「制服」が指定された。「共同体の力」の継続を示すためだという。記者も、
学生たちと同じ白シャツとジーンズで参加。冒頭、教室での行進は、明らかに前回より音量を増していた。
「制服」の効果だろうか。アロハシャツの男子学生が、黒板の前に引きずり出されて排除される「演出」もあった。
https://www.asahi.com/amp/articles/ASL884J6RL88UTIL01B.html