廃業決めた温泉旅館経営者「最後にGoToで少し夢を見させてもらった」
12/31(木) 16:05配信 NEWSポストセブン
https://news.yahoo.co.jp/articles/426024aba0987bf248a86da3ecd8c06742da5940

静岡県で温泉旅館を営む坂田章雄さん(仮名・60代)は、新年を迎える前に、父の代から続いた商売を2020年内で終わらせる「決断」を下した。
春から夏にかけ、予約が例年の9割減だったことに加えて、一縷の望みを託した正月のGoTo客がほぼゼロになったからである。
「GoToのおかげで秋はかなりお客さんにお越しいただきました。年末もほぼ完売状態。お客さんもいい人ばかりでね、頑張ってくださいって励ましてもらって。
私らも一生懸命感染対策して、みんなで食事作って部屋まで運んでね、温泉もお客さんが入る度にみんなで消毒しました。大変でしたけどね、ありがたかった」(坂田さん)
坂田さんに追い討ちをかけたのは「コロナウイルスの感染拡大にGoToが影響している」と言わんばかりの政治家や、専門家の発言である。
世間もそれに倣い、GoToはすぐに中止すべきという風潮が出来上がったが、それは宿泊業者の血の滲むような努力を嘲笑うかのようであったと話す。
「せっかくの旅行で感染されてはたまらないということで、出来ることは何でもやりました。高いマスクも買った、消毒剤も買った。
一つだけ事実を言わせてください。うちの旅館に泊まった人で、宿泊後二週間の間に感染が発覚した、というお客さんはただの一人もいません。
つまり、宿泊で感染したという例はないんです。宿泊事業者として、お客さんを危険な目にあわせたくない、これはプライドです」(坂田さん)

群馬県内で温泉旅館を営む・添田昌美さん(仮名・60代)も、年末年始のGoTo客のほとんどがキャンセルになり、このままでは従業員への給与、毎月の電気水道代などの固定費が支払えないと頭を抱える。
「対策さえしっかりしていれば、GoToで何とか乗り切れるという希望がありました。お客様同士の接触がないように入り口を改造したり食堂に仕切りを設置したり、お風呂もお客さんごとにお湯から全部入れ替えました。
消毒液もシーツも枕も、これからだという期待があったから、どうにか振り絞って100万円近くをかけて新しいものを購入したんですよ」(添田さん)
春先を耐え、夏休みも耐え、一年で一番稼ぎ時の秋冬を迎え、ここにきてやっと「挽回」ができれば何とか宿を潰さなくて済む、そう思っていた矢先の「GoTo中止」。
年越しを宿で過ごすという客も少なくなく、すでに食材の発注も終えていた。給与が少なくなっても残ってくれた従業員達も、総出で客を迎える準備をしていた。それらがほとんど無駄になった。
「数組のお客様は、GoToがなくても行くと仰ってくれました。でも、これで最後だと思います。年末年始にお客さんがこない、というだけではありません。
旅行は危険、という空気があるなかで、お正月明けにGoToが再開されても、お客さんは戻ってくるでしょうか? 結局、ぬか喜びしてお金を使ってしまい、自分の首を絞めてしまったような格好です」(添田さん)

GoToを中止するということは「旅行は危険」「旅行に行くな」と言っていることと同義だ。少なくとも観光事業者にとってはそう聞こえたはずで、彼らの努力、期待を全て無にしたに等しい。