「頼むから」学術会議問題、異色の抗議声明に込めた危惧
構成・藤生京子、大内悟史 2020年11月14日 17時30分

 日本学術会議の会員候補6人が任命拒否された問題は、菅義偉首相らが十分な説明をせず、
国会での議論は深まらない。一方、政府への抗議や要望を表明する学会の数は増え続け、
横断的な組織も生まれている。先月発表した声明が反響を集めた
イタリア学会の会長、藤谷道夫・慶応大教授(西洋古典学・中世イタリア文学)と、
上代文学会の代表理事、品田悦一(よしかず)・東京大教授(上代日本文学)の二人に、
今回の問題の深層と、日本の学問が置かれた状況について対談してもらった。

 ――イタリア学会は設立70年、初めて出した声明だそうですね。

 藤谷道夫 ええ、これまで政治的発言はしてきませんでしたから。
 個人的には7年8カ月にわたる安倍晋三首相の在職中、
森友・加計学園問題、特定秘密保護法、安保法と、目に余る民主主義無視の行状に
不満が募っていました。今回は臨界点を越えた気がしたんですね。

 専門であるダンテの『神曲』に登場する3種類の天使が頭にありました。
神に反旗を翻す黒天使(悪魔)と神の側に立つ白天使(天使)、どちらにもくみしない灰色天使。
ダンテはこの灰色天使が一番ダメだとみていて、人間も自分の意見をもたず
日和見な態度であるべきでない、また傍観者的態度であってはならないと言いたかったのですね。
私自身も態度を旗幟(きし)鮮明にすべき時と決意しました。
多くの会員も同じ思いだったのでしょう。一つの異論もなく声明を出すに至りました。

 ――ギリシャ悲劇からローマ皇帝伝、ガリレオ裁判にカフカの小説、
反ナチスの活動家の詩まで。文学性豊かな内容と表現が注目されました。
 藤谷 一般の人に訴えかけるものにしたいと工夫しました。
学問は死んだものではいけない。古代や中世に思いをはせても
現代へのフィードバックを意識する、自分の研究スタイルが少し投影されたかもしれません。(続く)