米国人だけでなく、外の世界も、ようやく、まともな将来を手に入れることができた。
トランプ氏は、国際秩序を混乱させた。もとより完璧ではないが、見せつけられた別の道
よりは優れていた。同盟国と多国間組織はさげすまれ、倫理にもとる指導者が後押しされ
た。外交問題では議会の制約が少なく、バイデン氏はトランプ主義のこの要素をすぐに打
ち消せる。ここでも、やはりジェスチャーとレトリックがものを言う。少なくとも4年間、
世界の民主主義国は、またホワイトハウスに友人を持つことになるのだ。

ワシントンで鳴り響く歓喜のクラクションからは想像できないが、18カ月前、バイデン氏
が大統領選出馬を発表した時、民主党員からは文句が出た。バーニー・サンダース上院議
員やエリザベス・ウォーレン上院議員といった候補の方が党内左派をはるかに興奮させて
いたし、穏健派すらもっと新鮮な顔を望んだ。だが、今振り返ると、バイデン氏はこの時
代に最善の選択だった。公人としての半世紀にわたり、超党派(同氏より左寄りの民主党
員に言わせると、度が過ぎる超党派)であると同時に、1945年以降の国際体制にコミット
してきた。このふたつこそが今、重要性を増している。イデオロギーかぶれの扇動者も、
素人外交官もこの任務にはふさわしくない。

バイデン氏が民族的なマイノリティー(少数派)の女性とともに選出されたことも、ジョ
ージ・フロイドさん殺害事件があった年にふさわしい。カマラ・ハリス副大統領は象徴的
な意味にとどまらない。バイデン氏は今月78歳になるだけに、ハリス氏らに多くを任せる
ことになるだろう。(実務に追われようとも)その象徴としての意味合いを矮小化すべき
ではない。「警察予算の打ち切り」を求める左派の領域に踏み込むことなく、米国の不平
等を是正するという試練が新政権を待ち受けている。米国の問題は、パンデミックと、コ
ロナによる経済ショックにとどまらない。これら諸問題に、久方ぶりに、誠実な善意の大
統領が立ち向かうことになる。
(2020年11月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/