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[FT]バイデン氏、憎しみの大統領の時代に幕(社説)
2020/11/10 16:07日本経済新聞 電子版 Financial Times

地上最強の人物が徐々に権力を失っていく流れは止まらない。ドナルド・トランプ米大統
領はホワイトハウスにとどまろうと戦うだろうが、その根拠はあやしい。世界は既に米国
の選挙から先に進んでいる。各国の首脳は、ジョー・バイデン氏を「プレジデント・エレ
クト(大統領に選ばれた人)」と称して祝辞を送っている。ほとんどの米国人が日常生活
に戻り始めている。街頭でのパーティーも親トランプ派の集会もそれほど見かけない。

共和党は、この移行プロセスを早め、名誉を保つことが可能だ。トランプ氏に敗北を認め
るよう促せばよいのだ。それも内々にではなく公に。今のところ、そうした圧力は遠回し
で、ひっそりとかけられているようだ。

高い理想が共和党を動かす動機にならないのなら、少なくとも自党の利益を心に留めたら
どうか。決選投票に持ち込むのは愚かなことだ。上院が有権者に刃向かうという評判が立
つのだから。権力の座をバイデン氏に譲ることで、近年のどの大統領よりも短くなりそう
な蜜月期間を長引かせる恐れはある。だが、バイデン氏が米国の新権力者と見なされる時
期が早ければ早いほど、同氏の責任をいち早く問えるようになる。選挙結果に異を唱えれ
ば、共和党が大方の予想より善戦したという事実がかすむ。

バイデン氏が目に見える形で米国を変えるのは容易ではない。だが、語調や倫理行動が改
善されることは、立法並みに大切なことだ。党派争いはトランプ氏が生んだものではない
が、現大統領は、亀裂を深め、広げた。後を継ぐバイデン氏は、友好的なリーダーシップ
スタイルでその溝を狭める方向に持ち込める。民主主義には、敗者の同意と勝者の寛大さ
が必要だ。前者の敗北宣言がないなか、後者は現在、バイデン氏が称賛に値するほど抑制
のきいた形で披露している。仮に民主党議員がもっと露骨な言動をする政権を声高に求め
たとしても、バイデン氏には今の調子で頑張ってもらいたい。