バイデン政権なら米中そろって「TPP参加」も
カルダー教授に聞く「新冷戦」時代の日米中関係
https://toyokeizai.net/articles/-/373589

――副大統領候補のカマラ・ハリス氏は、2024年の大統領候補として期待されています。彼女の国際社会観は?

基本的にプラグマティック(実利主義的)だろう。彼女は外交専門家でないし、独自のスタッフがあまりいない。
バイデン政権ができたとしても、初期段階ではハリスの外交への影響力はないだろう。考えられるのは、インドとの関係で存在感を発揮するのではないかということだ。
母方の家族はベンガル湾に面するインドのチェンナイの出身だ。
いまインド洋の戦略的な重要性は増している。トランプ政権のもとで、「クアッド(日米、オーストラリア、インドの4カ国による安全保障協力。2007年に当時の安倍晋三首相が提唱)」が復活した。
トランプ政権の初期段階でオーストラリアはあまり協力的ではなかったが、現在のモリソン政権になって積極的になった。インドと中国の関係悪化により、クアッドは本格的に動き出している。オーストラリアとインドの防衛協力も本格化してきた。

――トランプ政権の初仕事は、TPP(環太平洋経済連携協定)からの脱退でした。バイデン政権となればTPPへの復帰はありうるでしょうか?

その可能性はある。そもそもオバマ政権の外交構想は自由貿易協定と同盟を深く結びつけて、アメリカに近い国と全面的な協力関係を築くことにあった。日本や欧州とその体制を構築してから中国と向き合うという考え方だ。
一方の中国でもTPP加入への検討はされている。中国のハト派、たとえば中国・グローバル化研究センター(全球化智庫)の会長で国務院参事の王輝耀氏などは、中国はTPPに入るべきだと言っている。個人的には、米中がともにTPPに加入して協力の枠組みをつくる可能性はありうると思う。
しかしアメリカにはWTO加盟で中国に「いいとこどり」をされたという苦い経験があり、バイデン陣営もそれはわかっている。まずアメリカは日本をはじめ(アメリカの脱退後に成立した)TPP11を構成する国々としっかり話すべきだと思う。さらに欧州との関係も再構築したうえで、中国と話すべきだ。

――日本では「敵基地攻撃論」が関心を集めていますが、バイデン氏の日米同盟観は。

バイデン氏はアメリカが抑止力を提供するという伝統的な日米同盟のあり方を重視しており、日本は自分で自分を守れという発想ではない。
朝鮮半島でも伝統的な米韓関係のもとでアメリカ陸軍が韓国で抑止力となり、北朝鮮ににらみをきかせることを重視する。
バイデン氏の外交顧問であるトニー・ブリンケン氏はオバマ政権で国務副長官を務めたが、彼は日米韓関係に詳しく、日韓関係の修復に問題意識を持っている。
とくに最近の韓国は中国に接近している感じがあり、そこにはバイデン氏らも警戒感を持つだろう。

――日本に対してトランプ政権は駐留経費の負担引き上げを要求してきましたが、「バイデン政権」になっても同じでしょうか。

アメリカ軍人の給与を別にすれば日本は駐留経費の7〜8割を負担しているはずだ。
さらに給与まで払ったら、アメリカ軍は傭兵になってしまう。これ以上の引き上げは現実的でないし、それを主張すれば日本から反発も出る。ばかばかしい話だ。

ただ、日本側は新たな施設の建設には熱心だが、基地のメンテナンスなどにはあまり関心を持たない傾向がある。
国内の政治的な必要性があるのはわかるが、これはアメリカからみると不合理だ。そこはバイデン政権になっても指摘するのではないか。