316のつづき

目が悪いから「大画面」
 社会人になってしばらくして、実家に帰った時、新しい32インチのテレビが置いてありました。母親はちょっと自慢げでした。職業柄どんな感じか聞いてみると、「字が大きくなんで、見やすい」
との答え。時代劇「暴れん坊将軍」などが大好きななので、「健さんが大きく映るのがいい」とかの答えを期待していた私はちょっとビックリしました。
 「年取ると目が悪くなるから、大きいほうがいい」
 当時、大型はまだ値が張る商品(ブラウン管ですから、1インチ=1万円の時代)でしたが、さっさと買い替えたのは、臨場感でも何でもなく、「見やすかった」ためです。
 「なるほど」と思ったわけです。「大画面」という仕様を「エンターテイメント」ではなく「やさしい」として使ったわけです。
 アイリスオーヤマの家電は、必ず新しい提案がのっかっています。ただし、アイリスオーヤマは、大手家電メーカーのように、基礎技術から詰めてなんてことはありません。もしそれを行うと
すると、本格開発しないといけないので、値が高くなりますし、人も集めなければなりません。
 確かに、アイリスオーヤマは、家電メーカーの退職者を採用していますが、それはあくまで経験者だからです。一から開発するつもりはありません。しかし、新しい提案はしたい。このよう
な時に使われる手は、2つあります。
 今までなかった組み合わせの提案。そしてコンセプトの変更です。
 アイリスオーヤマのテレビが、本参入したのは2019年。目玉は「高画質」ではありませんでした。ちょうど、中国ハイセンスが本格販売を始めた時期にあたります。こちらは「東芝」のチップ
をいれ、チューナー3台を入れた、高技術、低価格という、デジタル技術の申し子みたいなテレビです。これに、日本のテレビメーカーはことごとく破れたわけです。同じ土俵で挑んでも、AV
系のブランド力がないアイリスオーヤマの勝ち目は皆無。
 彼らが選んだのは「音声操作」との組み合わせでした。
 テレビと言えばリモコンですが、今の世の中、ほとんどの家電はリモコン操作。使わないリモコンを含めると家に数十個はあると思います。しかも、どれも昔ながらの「乾電池」で動作するタ
イプ。電池切れたら大変。昔のゲームボーイのために、電池をずらりと揃えていた時代とは違い、充電が当たり前の時代ですから、家にストックはほとんどないですからね。確かにリモコン
は便利なのですが、だんだん、あり方が時代からはずれ始めていることは事実です。
 じゃ、スマホのアプリを使ってと、考えるかもしれませんが、アプリを開いてようやく使えるわけですから、面倒です。CMの間、別の番組のような芸当には不向きです。
 で、アイリスオーヤマが選択したのが「音声操作」です。東京で、「1チャン」というと、「総合テレビ」にチャンネルが変わります。音声の大小も可能。結構、便利です。技術の組み合わせ提
案が第一弾だったのです。

二世代目はコンセプト変え
 では、第二世代はどうしたか?コンセプト変えです。
「テレビは、4K、8Kという高画質を追い求めているんじゃないの?」と思った人も多いと思います。が、それは技術です。コンセプトは、「エンターティメント」です。
 他にコンセプトはあるのか? そう、アイリスオーヤマは、「人にやさしい」テレビに舵を切ったのです。

超高齢者社会に寄り添うテレビ
 超高齢化社会の問題は幾つかあります。その中の一つは、体の衰えです。体力、筋力の衰えもありますが、五感の衰えもあります。特に問題は「目」です。それは老眼ではありません。
最大の問題は「白内障」です。