ニコンが赤字転落、「カメラ不振」で迎える難所
人員削減や生産拠点の集約などリストラを加速
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大竹 麗子 : 東洋経済 記者2020/11/14 6:00
名門ニコンが窮地に立たされている。
11月5日に同社が発表した2020年4〜9月期の営業損益が466億円の赤字(前年同期は175億円の黒字)に転落した。主力のカメラ事業の業績が悪化しているのが主因だ。
カメラはかねてスマートフォンに押されて販売が厳しかったが、そこに新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけた。生産設備の減損損失や在庫の評価損など296億円を計上し、
2021年3月期通期でも750億円の営業赤字(前年同期は67億円の黒字)と、過去最悪規模となる見通しだ。
中でもカメラを含む映像事業は、今期売上高を前期比約4割減の1400億円、営業赤字450億円(前年同期は171億円の赤字)と厳しい数字を見込む。
5日に会見したニコンの馬立稔和社長は「映像事業は売上高が1500億円以下でも黒字を出せる筋肉質な構造にしたい」と、カメラ中心に構造改革を断行する姿勢を強調。宮城県の工場で
手がけるデジタル一眼レフカメラ本体の生産をタイ工場に集約し、販売会社を統合する。また、海外の従業員は2022年3月までに海外全体の約2割に当たる2000人を削減する計画だ。
こうした構造改革をめぐっては、昨年11月にも2021年3月期までに合計100億円を投じて、デジカメ商品の点数絞り込みや人員削減を行うことを発表。今年3月までには海外工場で約700人
の人員削減も実施済みだが、さらなる構造改革に追い込まれている。カメラ事業を中心に22年3月期までに全社で合計800億円の固定費を削減する狙いだ。

出遅れたミラーレスカメラ
ニコンを苦しめるのはカメラ市場縮小という外部環境だけではない。ミラーレスカメラでの出遅れという内部的要因も響く。
2019年のデジカメの世界総出荷台数は1521万台で、ピークだった10年の8分の1に縮小。2020年はコロナ禍も加わり、1〜9月の世界総出荷台数が前年から約半減している。
ただ、縮小する市場の中でも比較的人気が高いのがミラーレスカメラだ。2018年に国内総出荷台数で一眼レフカメラを逆転。カメラの目に当たるセンサーのサイズが大きいフルサイズのミラ
ーレスがプロ・ハイアマチュアから評価を受けており、ここで差別化商品を展開できるかが生き残りのカギだ。
ここで独走しているのがソニーだ。2013年に世界初のフルサイズミラーレスカメラを発売し、2019年のミラーレスの世界生産台数シェアは約42%と圧倒的。ミラーレスの勢いを武器に、2019
年のデジカメ全体の出荷台数でもニコンを抜いてソニーが2位に浮上した。
一方、ニコンは一眼レフとの食い合いを恐れ、2018年にようやくミラーレスに本格参入。2019年のミラーレス生産台数はソニーの165万台に対し、ニコンは28万台しかなく、その差は歴然とし
ている(テクノ・システム・リサーチ調べ)。ニコンと一眼レフでライバルだったキヤノンもカメラは苦しいが、7月に発売したフルサイズミラーレスカメラ「EOS R5」が高い評価を受けており、売
れ行きは好調だ。
こうした中、ニコンも今年下期にミラーレスを一気に3モデル新投入し、プロ・ハイアマ向けとハイエンド商品群に注力する方針だが、ニコンが出遅れを巻き返すことができるのか懸念も残る。
社内では世界を席巻した一眼レフ志向が根強く、今後は開発費や販促費をミラーレスへシフトしていくことも欠かせない。