178のつづき

●「NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会」
 ニッポンバラタナゴ高安研究会は木綿の商品化に取り組んでいる。ニッポンバラタナゴとは、絶滅が危惧されている日本固有の淡水魚。この会はニッポンバラタナゴを保存するため木綿
栽培を始めたが、今は自分たちで作った綿花で「帆布」や「バッグ」を作り、販売している。ニッポンバラタナゴが生息する池の水質を保つために、無農薬で栽培できる作物を探した結果、木
綿に行きついた。

「大阪城は帝国陸軍の根城だった」
──こうした国産木綿の栽培が復活してきたのはなぜでしょうか。
前田:一つは「伝統文化の再評価」だと思います。第二次世界大戦後の日本社会は、全体として西洋化、アメリカ化をどんどん進めてきました。しかし、20世紀終わりぐらいから伝統文化を見
直していこうという気運が高まり、街並みや村、お祭りの保存活動などが行われています。そうした伝統文化の見直しの流れの一つとして木綿産業が復活した側面があります。
 もう一つは「環境意識の高まり」です。たとえば環境省が2018年から提唱している「地域循環共生圏」という、生態系サービスを利用した循環型の社会地域づくりの支援があります。2019年
には「ニッポンバラタナゴ高安研究会」が中心となってつくった「環境アニメイティッドやお」が、モデルケースとして全国で35の団体のうちの一つに選ばれて、環境省の支援を受けて活動して
います。
──これまでのご経歴を教えてください。
前田:今65歳(1955年生まれ)です。大学に長くいすぎまして、理学部と経済学部を卒業しました。大学卒業後は東京の小さな英文の出版社に入り、編集者として働きました。1990年から2年
間、シカゴの日本国総領事館の専門調査員としてアメリカにいました。帰国後2年ぐらい経って、1994年にその会社を辞めました。その後はフリーの編集者、フリーのライターとして、経営者
のインタビュー記事や外資系企業向けのニューズレターを書いたり、社史も書いたりしました。2013年ぐらいから自分のテーマで書くようになり、人物よりモノに注目して歴史を描いています。
 2015年には『黒船の思想 船でたどる近代日本の歩み』(ブックウェイ)で造船に注目しながら、ペリー艦隊の黒船来航から日露戦争までの日本近代史を描きました。次に『軍人たちの大阪
城 大阪城は帝国陸軍の根城だった』(ブックウェイ)では大阪城と、大阪城に駐屯していた帝国陸軍第四師団を軸として大阪の近代を描きました。
 大阪城はかつて帝国陸軍の空間で、今の大阪城公園の倍ぐらいの面積を陸軍が利用していました。本丸には第四師団司令部がありました。3年前に亡くなった私の父は神戸で生まれ育ち、
大正生まれで自分も戦争に行った人ですが、「大阪城に第四師団がおって」という話をしたら、父が「お城に軍隊がおったんか」とびっくりするんです。戦前、大阪城に帝国陸軍第四師団が駐
屯していたことは大阪の人でも知らない人が多い。それで皆さんに知っていただこうと考えて書きました。

地方復活の鍵は「打ち合わせ」の分散
──3冊目のご著書である本書では、八尾における木綿の栄枯盛衰を通して大阪の産業構造の変化を描かれています。大阪や日本の社会の今後の見通しについてお聞かせください。
前田: 私の願望を織り込みながらお話します。国内の人口はこれからどんどん減るとみられていますが、これは「自然の恵み」の「リサイクル」にはプラスに働く面があります。
 経済活動をフローとストックに分けると、人口が減ると当然、全体としてのフローには縮小の圧力が働きます。これに対し、ストックは人口が減っても変わらないので、一人あたりのストック
はむしろ増えます。たとえば、人口が減っても国土面積は変わらないから、農地として使える土地の一人あたり面積は増える。「自然の恵み」としての農地の供給が増えることになり、農地
の価格も下がる。これを活用するべきだと思います。これは山や海についても同じで、農林水産業の振興がやはり大きな課題になるでしょう。ただ、現実はどの産業も後継者不足などから
低迷しています。