国際医療福祉大学 高橋泰教授に聞く 新型コロナウイルス 「感染7段階モデル」提唱/暴露は国民の3割、98%はほぼ無症状
2020年7月27日
https://www.koureisha-jutaku.com/newspaper/synthesis/20200727_takahashi/

新型コロナウイルスの特徴の1つに、獲得免疫の立ち上がりが「遅い」点がある。5月6日に『米国医師会雑誌(The Journal of the American Medical Association)』で発表された論文では、
新型コロナウイルスは抗体の発動が非常に遅いことが報告されている。
インフルエンザの場合、ウイルス自体の毒性が強く、暴露(体内に入ること)、感染すると、発熱、咳、鼻汁、筋肉痛など明らかな症状がすぐに出る。
そして、発症後2日から1週間で獲得免疫が立ち上がり、抗体ができてくる。なぜ、新型コロナウイルスは抗体の発動が遅いのか。
ここで私たちの研究チームは「新型コロナは毒性が弱いために、生体が抗体を出すほどの『外敵』だと認識せず、自然免疫で処理してしまっているのではないか」と解釈した。
その上で、「獲得免疫が動き出すまでもなく自然免疫で新型コロナウイルスを処理してしまい、治癒している場合が多い」という仮説を立てた。
これまで、インフルエンザと同じような感染モデルで考えられることが多かったが、新型コロナ独自の感染モデルを考えなくてはいけないと考えている。
インフルエンザとの比較で言えば、新型コロナウイルスは「おとなしい」ウイルスと表現できるだろう。
初期から中盤まで、暴露力は非常に強いが、伝染力と毒性は弱く、体内に入り込んでも、多くの場合は無症状か、いわゆる風邪の症状程度で終わる。
この春の「第1波」時における抗体検査では、ロンドンが16.7%、ニューヨークが12.3%、東京は0.1%だった。
これまでの解釈では「東京(日本)では感染(暴露)防止は完璧に近かった。だから感染者が少なく、抗体を持つ人が少ない」という考え方が主だが、
日本は欧米に比べて強力なロックダウンなどを実施しておらず、新型コロナウイルスへの暴露自体が欧米に比べて極端に少なかったとは考えにくい。
顕著な発症がなかっただけで暴露率に大きな差がなかったのではないか。その差の主因の1つが自然免疫にあると考える。
欧米と比べて日本の場合、新型コロナに暴露した人が他者を暴露させたとしても大半が自然免疫で処理され、
軽症以上の発症比率は低く、それゆえ抗体陽性率も低くなっている。日本人やアジア系の自然免疫力がなぜ強いかに関してはあくまで仮説で、
専門的な研究を待ちたいが、私自身はBCGの影響が関与しているとみている。発症者死亡率も、日本は欧米に比べて低い。理由の1つは、欧米人種に比べて血栓ができにくいことだ。
だから、サイトカイン・ストームが起きても、日本人(アジア系人種)は重症化を回避できる可能性が高い。
発症者死亡率について、日本では0歳から69歳まで0.01%、70歳では0.4%だが、欧州の場合、それぞれ0.05%、2%と約5倍を見込んでいる。
暴露率や発症率、発症者死亡率は、まだ仮説的段階で信頼度は低いが、今後データが集まれば、より精緻なモデルで日本と欧米、あるいは世界各地の状況を比較検討できるだろう。

―――当初は「日本国内でも数十万人が亡くなる」との推計もありました。

7段階モデルによる試算では、新型コロナウイルスによる死者は人口10万人対比で0.8人。ウイルス変異などがなく推移すれば、どんなに蔓延しても10万人中3人以上、
全人口比で約3800人を大幅に超える死者が出る確率は低い。誤解を恐れずに言えば、国内の自殺者数は景気の悪いときには全国で年間3万人を超えた事例がある。
10万人当たり24人だ。新型コロナ感染を過大に見積もり、経済活動の停滞が進めば、新型コロナで亡くなる人を防ぐためにより多くの犠牲が生じる恐れもある。
このジレンマを乗り越えるためにも、新型コロナ対策のメリットとデメリットを数値からしっかり提示し、バランスを考えることが重要だ。重ねて、PCR検査の陽性者数に一喜一憂しないこと。
これはマスメディアを含めて一番重要な点だ。特に30歳未満では重症者リスクが非常に低い。私個人の考えとしては、学校なども平常に戻すべきだと考えている。
インフルエンザによる学級閉鎖と同様、明らかな症状が複数の人に現れる集団感染が発生して初めて、学級閉鎖や自宅待機などを行えばよいのではないだろうか。