米欧は中国が膨大な融資で途上国への影響力や支配力を強めるのを「債務のワナ」と呼んで警
戒してきた。中国は広域経済圏構想「一帯一路」を掲げて鉄道や港湾の建設資金を融資し、中
国国有企業の受注などで自国の経済や外交、安全保障上の利益も得る。返済に行き詰まったス
リランカは17年、主要港湾を中国国有企業に99年間もリースする事態に陥った。

一辺倒を見直す動きもあり、アフリカ南西部のアンゴラはIMFからの37億ドルの融資対象になっ
た。世銀とIMFは途上国への融資が中国への返済の原資に充てられるだけになることには警戒を
続けている。
融資の実態が明らかになったのは新型コロナウイルスがきっかけだ。途上国が債務危機に陥っ
たり、医療予算の減少で感染爆発を招いたりする懸念が強まり、4月の主要20カ国・地域(G20)
財務相・中央銀行総裁会議で返済猶予に合意。中国も返済猶予と国別の開示は影響が小さいと
みて受け入れたようだ。

68カ国は返済猶予の対象国で、重い債務を抱える小規模な国が多い。
G20では返済猶予に続いて、債務免除まで議論が進む可能性がある。これまで危機のたびに日米
欧の主要国を中心とするパリクラブ(主要債権国会議)が途上国救済の枠組みを決めてきた。
最大の貸し手である中国を抜きに議論を進められなくなり、国際協調をどう実現するかは手探りだ。

中国は融資を通じて人民元の国際化も探っている。米調査会社ユーラシア・グループは「米ドル
で貸した途上国向けの債務を、一部免除する代わりに人民元建てに切り替える案が中国国内で浮
上している」と指摘した。

第2次世界大戦中の1944年に開かれたブレトンウッズ会議はIMFと世銀の設立を決め、ドルの基軸
通貨としての地位も認めた。それから70年以上続いた米国主導の国際金融秩序が中国の挑戦を受
けている。