香港・国家安全法が「中国の没落」と「日本の復活」をもたらす可能性
https://news.yahoo.co.jp/articles/339fd714d860fc113b3050ba908ece462d1cd0aa
自由な政治がなければ、自由な経済もない
もちろん、香港の国際金融センターとしての魅力は、自由な金融取引ができなければ
維持できない。もはや、金融センターとしての香港の将来はないだろう。
特に香港ドルについてはドルペッグされており、これが香港の金融インフラを支えている。
米国がドル決済で国際金融機関に制限をかければ、香港の金融経済はまったく機能
しなくなり、ひとたまりもなく没落する。
米国はドルという世界最強通貨をもっているので、その気になれば香港の生殺与奪を
握っているともいえる。
中国にとって、香港を失うのは経済的な打撃である。
国際金融センターとして上海が伸びてきているので、香港の代替ができるのではないか
という意見もあるが、筆者は否定的だ。
というのは、そもそも国際金融センターとして不可欠な「自由な資本移動」が、中国では
不可能だからだ。
これをきちんと理解するためには、まず国際金融の知識である「国際金融のトリレンマ」
についての理解が必要だ。
ざっくりいうと、(1)自由な資本移動、(2)固定相場制、(3)独立した金融政策のすべてを
同時に実行することはできず、このうち二つしか選べないというものである。
このため、先進国の経済は二つのタイプに分かれる。
一つは日本や米国のような変動相場制である。
(1)の自由な資本移動は必須なので、(2)の固定相場制をとるか(3)の独立した金融政策を
とるかの選択になるが、ここで金融政策を選択し、固定相場制を放棄している。
もう一つはユーロ圏のように、域内は固定相場制、域外に対しては変動相場制を取る
というものだ。(1)の自由な資本移動は必要だが、域内では(2)の固定相場制のメリットを
生かし、かわりに独立した金融政策を放棄する。
もっとも、域外に対しては変動相場制なので、域内を一つの国と思えばやはり変動相場制
ともいえる。
いずれにしても、先進各国は(1)の自由な資本移動を最優先で確保している。
逆にいえば、自由な資本移動があって、自由な国際金融センターがないと、
先進国の資格がないというわけだ。
先進国クラブといわれるOECD(経済協力開発機構)の加盟条件として、資本の自由化が含まれているのはそのためだ。
中国経済は、そうした先進国タイプになれない。
中国は、一党独裁社会主義であるので、(1)の自由な資本移動が基本的に採用できない。
例えば、土地などの生産手段は国有というのが社会主義の建前だ。
中国の社会主義では、外資が中国国内に完全な民間会社を持てない。
中国へ出資しても、中国政府の息のかかった中国企業との合弁までで、
外資が会社の支配権を持つことはない。
要するに、中国では自由な資本移動がないために、本格的な国際金融センター
を擁することも不可能なのだ。
なお、先進国はこれまでのところ、基本的に民主主義国家である。
これは、自由な政治体制がなければ自由な経済体制も作れず、その結果としての
成長もないからだ。
このあたりの理論的な説明は、フリードマン『資本主義と自由』に詳しい。
この理論を進めると、今の中国の一党独裁体制では、経済的な自由の確保ができない
ので、いずれ行き詰まることが示唆される。
この議論は、近く中国が崩壊するという悲惨な予測や、中国も経済発展を遂げれば
いずれ民主化するという楽観論とも一線を画しており、そうした予測をするものではない。