天才プログラマー金子勇さんを無罪に導いた壇俊光弁護士、世界に冠たる国産ソフト「Winny」事件の裏側と友情を語る
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猪谷千香
「天才」と呼ばれたプログラマー、金子勇さんを覚えているだろうか。2002年、ブロックチェーンの先駆けであるP2P技術を用いたWinny(ウィニー)というファイル共有ソフトを発表した。
Winnyは爆発的に流行。金子さんの凄まじいプログラミングは一躍、脚光を集めた。ところが2004年、金子さんは突然、逮捕されてしまう。
一部のユーザーがWinnyを利用して映画や音楽などの送信をおこなっていたことから、開発者である金子さんが著作権法違反幇助の罪に問われたのだ。
しかし、金子さんに救いの手が差し伸べられる。壇俊光弁護士だ。金子さんとは面識がなかったが、「もし開発者が逮捕されたら全力でやりますよ」と話していたことをきっかけに、その弁護
を引き受けることになった。
偶然のような出会いから弁護人となった壇弁護士は、弁護団を結成。弁護団の事務局長として最高裁まで戦い抜き、2011年には無罪を勝ち取った。ところが、金子さんは名誉を取り戻した
のもつかの間、2013年7月にこの世から去る。惜しまれる死だった。
日本の刑事司法によって毀誉褒貶の人生を歩むことになった金子さん。壇弁護士はその闘争の舞台裏を、弁護人の目を通して描いた小説「Winny 天才プログラマー 金子勇との7年半」(イ
ンプレスR&D)として今春、上梓した。
7年半、金子さんとともに歩んだ壇弁護士は、この本にどのような思いを込めたのだろうか。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●「Winnyを知らない世代の人たちに読んでほしい」
この小説は、あるプログラマーが警察に突然、いわれのない罪の容疑で逮捕され、1人の弁護士と出会うところから始まる。
プログラミングにしか興味がない、マイペースな北関東生まれの天才プログラマー。試行錯誤しながらも、前代未聞の境地を切り開いた大阪生まれの若手弁護士。そんな対照的な2人が友
情と信頼で結ばれ、時には摩擦を生じながら、ともに刑事司法と最高裁まで戦い抜き、無罪判決を勝ち取る物語だ。
しかし、普通の小説と異なるのは、書かれているすべてが、現実で起きたということである。私たちがすでにニュースで知っている金子さんの事件を、壇弁護士が小説というスタイルで一冊
の本にまとめた。
もともとブログでこの裁判について書いていた壇弁護士。なぜあえて、小説という形にしたのだろうか。きっかけの一つは、怪童と呼ばれ、将来を望まれながらも29歳で夭折した棋士、村山
聖さんの生涯を描いた映画「聖の青春」(2016年)を観たことだ。
「へんな創作無しにそのまま書けば良いのかと。これだったら、金子さんの人生も映画にできるんじゃない?という気になりました。ブログを書き終わった後に『小説で読みたい』といってくれ
る人もいました」
最初は漫画化の道を探ったが、そのうち映画化の話が舞い込んだ。
「これは、昨年映画化が決まり、ネットで話題になった件とは別の、速攻でポシャった件ですけどね。漫画だったら自分は何も描かなくていいと思ったんですけど、映画化は原作がしっかりし
ていないとダメだよねということになって、しゃあない、書くかと…」
しかし、原稿はほぼ書きあがったものの、なかなか出版社が決まらなかった。「ITの用語が難しすぎて読者がついてこられない」「数値が入ってないから裏付けがない」「このままでは売れな
い」・・・さまざまな理由で出版には至らなかった。
「別の出版社では、金子の内心を書いてくれと言われました。もう、恐山のいたこを呼んでこいやと(笑)」
前代未聞の事件の裁判を描いた前代未聞の小説である。ようやく、ネットや技術の本を多く出しているインプレスR&D社が決まった。