具体的なことを医師会の資料で例示します。

警察からの照会の対応について、ご教示ください。
質問1 警察からの電話で、患者の病名などを問合せて来ました。回答しなければなりませんか。
質問2 警察署長から「捜査関係事項照会書」と題する書面が届きました。照会事項は、患者Aの「病名と通院期間」です。回答しなければなりませんか。Aの同意を得ずに回答した場合、個人情報保護法違反になりませんか。
質問3 照会事項は、当院の患者Bの「カルテおよび病院が採取した血液の検体」の任意提出です。Bは殺人事件の被害者であり、すでに当院で死亡しているので、Bの同意は得られませんが、任意提出に応じるべきでしょうか。
質問4 照会事項は、当院内科に通院する患者Cの「責任能力の有無」でした。当院は、どう対処すべきでしょうか。

回答1 電話照会は、電話の相手が警察官かどうかの確認もできませんし、記録も残りませんので、原則として断るべきです。その代わり「公文書での照会があれば、お答えします」と言って、公文書による照会を要求することをお勧めします。
回答2 「捜査関係事項照会書」は、刑事訴訟法197条2項に基づく照会ですが、任意捜査ですから、病院には照会に応ずる法的義務まではありません。
しかし、患者の病名や通院期間のように、カルテを見れば容易に回答できる事実の照会には、回答するのが一般的です。なお、この照会に対する回答は、個人情報保護法の「法令に基づく場合」に該当するので、患者の同意がなくても、同法違反にはなりません。
回答3 任意提出ですから、病院が応じないことも可能です。しかし、本件では、応じることをお勧めします。その理由の第1は、警察は、Bを被害者とする殺人事件の捜査を行っており、
その証拠としてカルテおよび血液の検体を必要としているものと推察されますので、病院が任意提出することは、犯人を処罰することに役立つので、Bの意思に反するものではないと考えられること、
第2に病院が拒絶した場合、警察は、裁判所の捜索差押令状をとって差押えることも可能ですから、いずれ提出させられることです。
回答4 たとえ殺人犯であっても、責任能力が無ければ無罪になりますので、責任能力の有無の判定は、刑事捜査において極めて重要です。そのため、捜査機関が起訴前に被疑者の責任能力を判断する手段として、簡易鑑定と起訴前本鑑定があり、通常、精神科や
神経内科などの専門家に鑑定を依頼します。ところが、今回の照会は、内科医に患者の責任能力の有無について意見を求めようとするものですから、事実の照会の範囲を超えています。
よって、「当院は内科であり、責任能力の有無については判断できません」と回答することをお勧めします。