国家責任を巡っては、国連の国際法委員会(ILC)が法典化を進めている国際慣習法に反する
かどうかが論点となる。

ILCは01年に採択した条文案で「責任ある国家は、国際違法行為により生じた損害の完全な賠
償義務を負う」と明記した。地方政府の違法行為が原因であっても国として国家責任が生じる。
賠償は「原状回復」「金銭賠償」「陳謝」という形式を挙げる。

実際に中国に賠償させることは可能か。早大の萬歳寛之教授(国際法)は「原因と被害の因果
が証明できなければ金銭賠償は難しい」とする。(1)科学的知見がありながら「相当の注意」
を怠った(2)それが米国などの患者への罹患(りかん)につながった――との立証が必要という。
「国際保健規則上の手続き違反があったとしてもそれだけでは再発防止の確約を求めるのが限界」
と話す。

条文案はILCという機関が採択したにとどまり各国が批准した拘束力がある条約ではない。国際
司法裁判所(ICJ)への提訴も中国の同意が前提となる。今回、中国の国家責任を問う場として
米国の裁判を選ぶ動きは国際司法に持ち込むことが難しい事情もある。

国家責任を巡る議論は司法ではなく、外交的な駆け引きで解決する事例が多い。例えば、日韓両
政府は戦後処理で裁判などは選ばず、両国間で請求権問題の「完全かつ最終的な解決」をうたっ
た協定を結ぶ一方、賠償ではなく日本からの巨額な経済協力を選択した。

新型コロナの責任を巡る米中の応酬には今後の外交的な思惑も透ける。萬歳教授は「責任追及よ
りも国連総会やWHOなど多国間フォーラムで討論する機会を通じて知見を引き出すほうが現実的
だ」と強調する。「悪役を懲らしめるという構図は国際社会ではうまく機能しない」とも語る。