米国では茶会運動が起き、下院の過半を握る共和党はオバマ大統領の政策をことごとく阻
止した。次の大統領は行政府をことごとく骨抜きにしようとした。何でも市場に任せれば
いいという主張は、07年に比べ17年に弱まっていたかといえば、そうでもない。

だが今回は違いそうだ。まず、危険にさらされているものがあまりにも大きい。ウイルス
の感染拡大は単に個人が収入を失うといった悲惨な事態で終わらない(多数の死者も出て
いる)。だが、これを社会の誰のせいにもできない。ケーブルテレビで物知り顔のコメン
テーターが、貧困層が無理に家を買おうとするからだとか、かつてのウォール街占拠運動
のように富裕層に責任を問うこともできない。

つまり今なら、国民のコンセンサスを得るまではできないとしても、もう少し大規模で積
極的に経済や医療制度に関与する政府が必要だという考え方で合意できる可能性はある。
左派はこれまで様々なチャンスを逃してきたが、今回は失敗できないはずだ。

■サンダース氏が残した影響力は続く

1964年の米大統領選挙で、ニューディール政策反対を掲げた共和党指名のバリー・ゴール
ドウォーター候補は大敗を喫した。だが、最終的に彼は負けたわけではなかった。「ゴー
ルドウォーターは負けたのではない。(小さな政府を掲げた)レーガン氏が16年後に大統
領選で勝ったからだ」と米著名コラムニストのジョージ・ウィル氏は80年の米大統領選で
のレーガン氏の勝利を説明した。「小さな政府」というゴールドウォーター氏の強い主張
がニューライトに大きな希望を与えたというのだ。新たな急進的な発想を米政治に注入す
るのに、わずか1回の敗北ですんだのはコストとしては小さい。それどころか、大統領選
での敗北はゴールドウォーター氏に殉教者という栄光をもたらすことになった。

サンダース氏が再び大統領選に出馬することはもうないだろう。自分がゴールドウォータ
ー氏と比較されるなどサンダース氏にとってはとんでもない話だろうが、サンダース氏も
ゴールドウォーター氏的な存在になるだろう。過激だとみられた数年、そして今年の予備
選挙での躍進、その後、バイデン氏に大差をつけられたが、イデオロギー的には成功した。