3月上旬には考えられなかったことだが、米政治はここへきて社会民主主義に近い政策が
次々と飛び出している。これまで左派的な議論は遅々として進まなかったが(富裕税の導
入や医療制度に対する世論をみればいい)、コロナ感染拡大という緊急事態の雰囲気が高
まる中、急に勢いを増している。コロナ危機によって、サンダース氏が考える世界のある
べき姿へと社会が変貌しつつある。

英国は現在、保守党政権であるにもかかわらず、大規模な財政出動を決めつつある(編集
注、11日、17日、20日と3弾の経済対策を発表した)。どちらかといえば企業よりとされる
大統領が率いるフランスも同じだ。米国が異なるのは、この危機下で家計や企業への支援
という短期の議論にとどまっていない点だ。今や根本的な富の再配分の問題まで議論され
つつある。だからこそロムニー氏は、常に企業側の立場に立ってきた共和党の議員らしい
給与税減税や企業への債務保証だけでなく、踏み込んだ提案をしたのだ。

国民皆保険制度の導入については細かいところで議論がつまずきがちだが、今回の感染拡
大で判明したのは、国民皆保険制度を導入していない限り、国民は誰も医療制度によって
保護されていないに等しいという痛いほど単純な真実だ。米国でも皆保険制度が必要だと
主張してきたサンダース氏の考え方は異端視されてきたが、長く主張してきたおかげで認
められるようになったということだ。

■経済学的考え方は今、転換点の入り口に

我々は今、経済学的にどういう考え方が望ましいのかを改めて考え直さなければならない
歴史的転換点の入り口にいる。1970年代の石油危機以降、規制をなるべく減らして市場に
任せるのが経済的には望ましいとされてきて以来、最大の転換点が到来したということだ。
読者は2008年の金融危機が転換点だったと思うかもしれない。当時、経済学者ケインズの
伝記を書いた英経済学者(編集注、ロバート・スキデルスキー氏)は、「政府こそが経済
に責任を持つべきだ」としたケインズの考え方に立ち戻るべきだと説いた。だが、その議
論はつかの間で終わり、西欧諸国はどこも緊縮財政に走った。