https://www.sankeibiz.jp/macro/news/180529/mca1805290500008-n1.htm
【視点】トランプ米政権の対日通商攻勢 「取引」に翻弄されず毅然と対処を
□産経新聞論説副委員長・長谷川秀行

通商上の主たる標的は、米国と経済覇権を争う中国だけではない。トランプ政権が自動車
・同部品に対する輸入制限の検討を始めたのをみて、その思いを強くした。
鉄鋼・アルミニウムに高関税を課したのと同様、通商拡大法232条に基づく行動である。
自動車の輸入増が米国の安全保障上の脅威になっているかどうかを商務省が調べる。脅威
だと判断すれば、25%もの高関税を検討するという報道もある。大きな打撃を受けるの
は日本であり欧州だ。

国境を越えて結びつく経済実態などお構いなしに、貿易赤字を「損」と捉えるのがトラン
プ氏の考え方である。政権発足から1年は、過激発言とは裏腹に強硬に貿易紛争を仕掛け
ることは少なかった。今年は違う。成果にこだわっているようだ。

米国が2国間にこだわるのは、多くの国を相手にするより、自国の利益を反映させやすい
と考えるからだ。先に再交渉が妥結した米韓FTAでは、在韓米軍の撤退までちらつかせ
て譲歩を迫った。露骨な取引外交には当然ながら警戒がいる。
だからといって、TPPか日米FTAかという二者択一で協議の成否を判断する必要はな
い。日本は、TPP参加国のうちオーストラリアなどとも個別協定を発効させている。
日米FTAとTPPの議論も両立し得るのである。

問題は両者が整合的かどうかだ。TPPを上回る譲歩はできないという一線を守れるなら、
日米協議の仕上がりがどんな形になっても、実は大きな意味がない。
無論、これは日本側の期待だ。トランプ氏はよほどの好条件でないとTPP復帰はないと
明言する。対日協議でも、TPPを上回る成果を求めよう。鉄鋼分野で韓国に認めさせた
輸入数量の上限などを日米FTAに盛り込もうとするかもしれない。こうした理不尽な要
求をいかに阻めるかだ。