これがホンハイ流スピード経営だ!シャープ蘇らせた驚異のコスト削減と販売力の真髄
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大槻 智洋
Dec. 08, 2017, 11:30 AM

台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されて、わずか1年4カ月で東証2部から1部に復帰したシャープ。ホンハイの総帥・郭台銘(テリー・ゴウ)会長の懐刀で、社長としてシャープに送り込まれた戴正呉氏がいかに再生に向け奔走したのか。台湾流スピード経営の
真髄を解説する。

「取締役会議長、経営戦略会議議長、オペレーション決裁のうちオペレーション決裁を新社長に任せる」
戴氏は東証1部指定替えの会見で、こう語り周囲を驚かせた。再建をアピールする場で、社内外から共同CEOを招き、早々と日常の経営から一歩退くことを明らかにしたからだ。

金型の新規作成コストも槍玉に
これこそがまさにスピード感の源泉である。振り返れば戴氏は、シャープに乗り込むや否や膨らみがちだったコスト構造をいち早く分析。合理的でないと判断したものについては苛烈なコスト削減を実施していった。
例えば、事務関連では遠慮なくオフィスレンタル契約の見直しに着手。シャープの命綱である商品開発に関しても、金型の新規作製を表す「開模手続きを見直した」(戴氏)。これにかかるコストは、開発費の中でとびきり高い。なのにホンハイが経営参加するまでは
「好き勝手に開模していたところがあった」(同)。金型の作製は、受託製造で世界を席巻してきたホンハイがホンハイたる経営の根幹ともいえる。シャープはそこで非情ともいえる洗礼を受けたのだ。

トップラインも大幅に改善した。売上高に関しては、ホンハイがシャープブランドの製品、特にテレビを売りまくる体制を築きつつある。中国の調査会社、シグマインテルによると、ホンハイはテレビの代理製造台数で2017年10月だけで前年同月比2倍増の220万台と
圧倒的なトップに立っている(シャープのほかソニー、インフォカスでのブランドを含む)。

ホンハイは攻勢の手を休めない。2017年11月には、中国最大手の家電量販店チェーン、蘇寧(スニン)と大々的な提携をすると発表した。詳細はまだ明らかにされていないが、小売額ベースで3年間で500億人民元(約8500億円)に達するもので、超高精細の8Kの
映像機器・サービスやAR(拡張現実)、5G通信に関するものが含まれているという。

組織運営上はシャープを厚遇
シャープ再建において意外だったのは、社長を戴氏が務めたことだった。戴氏と筆者は2006年以降、幾度も面談しており、高い力量をうかがい知っていた。それだけにいきなり戴氏が社長に就くのではなく、シャープの日本人生え抜きにやらせると思っていた。再建
は人に恨まれがちな汚れ役だからであり、ホンハイも有能な戴氏をシャープ専従にさせたくないはずだと思ったからだ。
しかし実際には、「自分が良い家に住んでもお客は喜ばない」とばかりに戴氏は、古めのシャープ社員寮に住み込んで再建に汗を流した。
ほとんど認知されていないが、ホンハイはシャープを組織運営上厚遇した。ホンハイグループは13のサブグループ(次集団)に分割統治されているが、シャープは特定のサブグループに属さない。故にいかなるサブグループ長(次集団総裁)の命令も聞かなくていい。
こんな扱いを受ける組織は、iPhoneで巨額の売り上げを誇る「CAA産品事業群」くらいである。こうした実態があったからこそ、郭氏や戴氏は繰り返し「われわれはシャープを買収したのではなく、シャープに投資した」と述べていた。