582のつづき

・経団連会長を輩出した「ザ・日本企業」の影響力を踏まえると、なにかしらの不都合な事実をネットに書き込まれた企業は、それを即座に公表するのが当然という風潮が生まれないだろうか。
 実際、危機管理の専門家として名高い郷原信郎弁護士も、ご自身のブログにその可能性を示唆している。
 「経団連会長出身企業がそのように理由を説明して問題の公表を行った以上、他の企業も、今後データ改ざん等の具体的事実が掲示板に書き込まれる都度、同様の対応をせざるを得ないことになる」(2017年11月29日)
 ご指摘の通りだと考える。さらにもっと言ってしまうと、この公表によって「内部告発」の動きも活性化されることが予想される。

● 名門企業・東レの敗北宣言に 大企業は戦々恐々
 既にさまざまな方が指摘しているが、日本社会ほど内部告発に厳しい社会はない。組織内で良かれと思って声をあげると、孤立して左遷されるのはお約束。最悪、「自分から辞めたいという申し出があった」という体裁で、退職に追い込まれる。
 そういう人を守るということでつくられたはずの公益通報者制度も中身がスカスカで、国が調査をおこなったところ、半数近くの通報者が退職に追い込まれたり、嫌がらせなどを受けていることが分かっている。
 こういう社会の中で、東レのような大企業が、「ネット掲示板へのカキコミ」に対して「敗北宣言」とも取れるような会見をおこなえば、不正を告発しようと悩む人の背中を押すのは容易に想像できよう。
 無論、筆者が指摘しているようなことは、企業の危機管理の担当者は十分承知している。東レの会見を受けて、今頃はネットのモニタリングやアラート体制の強化などを呼びかけていることだろう。あるいは、「どうやったらそういう書き込みを消せるのだ」なんて、
あまり褒められないような「策」を講じる方もいるかもしれない。
 だが、そういう焼け石に水的な対策や、不毛な議論をおこなうより遥かに有益な方法がある。中国企業ファーウェイのやり方を見習うのだ。

● 内部告発者を2段階昇進! ファーウェイCEOの戦略とは
 今年9月、ファーウェイが職員向けに開いているオープンコミニティ「心声社区」に、創始者である任正非CEOの「真実を貫いてこそHuaweiは充実する」(原題:要堅持真実、華為才能更充実)というメールが公開された。そこにはこのように書かれている。
 「我々は職員および幹部が真実を語ることを奨励すべきだ。真実には正確なものと不正確なものがあるので、各組織がそれを採択すべきかどうかは問題ではないが、風紀を変える必要はある。真実は組織の管理を改善するのに役立つが、嘘は管理を複雑化し、
コストを高める要因となる。よって、会社は梁山広氏(社員番号00379880)のランクを即日2つ昇進させ16Aとし、そのほかの昇進や一般査定に影響しないものとする。自らの職位を選べ、研究所での仕事を許諾。ケ泰華氏の保護下に置かれ、打撃や報復を受けない
ものとする」(PCWatch 2017年9月6日)
 このメールでは梁氏がどのような「事実」を語ったのかは明らかにされていないが、何かしらの開発に関して「内部告発」をしたのではないかといわれている。
 実際、ファーウェイ・ジャパンの広報に確認したところ、「心声社区」は「本音を自由に言い合える場所」という意味の造語で、社員の不満を直接経営に反映させるために設置されており、SNSを介して外部にも公表されている。
 もちろん、この梁氏が本当にここまで厚遇されているのかどうかはわからないが、この「内部告発者を昇格させる」という型破りな対応が、ファーウェイ社内だけではなく、中国国内からも多数の賞賛の声を寄せられたのだ。

● 内部告発者を保護することが ネット告発の減少につながる
 いやいや、ああいう国だから「建前」で取り繕っているだけだと、斜に構えた見方をする方も多いだろうが、「内部告発」ということに関していえば、先ほども申し上げたように、我々の国は「建前」ですらも維持できていないという体たらくである。
 「個々のモラルだったら絶対に日本人が勝つ!」とか「このやり方では出世目当ての告発合戦になりそうだ」なんて感じで、さまざまな反論が聞こえてきそうだが、個人的には日本企業が素直に見習うべきスタンスだと考えている。
 なぜかというと、このファーウェイ方式が、次から次へと組織内部から悪い話が噴出する「ネット告発ドミノ」の対策として、実は最も有効だからだ。
 「ネット告発」を世の中から消すために最も有効な手段は、内部告発は匿名でコソコソとおこなわれなくてはいけないものだ、というカルチャーを変えることだというのは言うまでもない。
 つまり、「内部告発」を「裏切り」や「経営危機」というマイナスで捉えることな(続く