事務所の投資なしに芸能界は成立しないのか? タレント移籍制限をめぐる諸問題

◆ようやく公取が動き始めた

筆者は2014年に上梓した『芸能人はなぜ干されるのか? 
芸能界独占禁止法違反』(鹿砦社)以来、
芸能界のタレントの移籍制限や独立したタレントへの追放は
独占禁止法に抵触すると主張してきたが、ようやく公取が動き始めたようで感慨深い。

SMAP騒動に見られたように、芸能事務所による芸能界支配は、
タレントや視聴者、テレビ局にとって不利益であり、まったく合理的ではないものだ。
なぜ、この問題が放置されてきたかと言えば、
芸能事務所側の「われわれはタレントに投資をし、それを回収しなければならないのだから、
勝手な移籍や独立は許されない」という言い分があったためだろう。

朝日記事でも、「芸能事務所が育成にかけた費用を回収することは正当化できるとして、
業界内でどういった補償が適切か検討するよう求める方針だ」とあり、
タレントに対する投資の問題が移籍制限の背景にはありそうだ。

◆アメリカではタレントとエージェンシーの関係は対等である

だが、筆者が調べた限りでは、世界のエンターテインメントの本場であるアメリカでは、
タレントと日本の芸能事務所にあたるタレント・エージェンシーの関係は対等であり、
タレントがエージェントとの契約を解除するのは自由であった。

ところが、ハリウッドのエンターテインメント業界を規制するタレント・エージェンシー法を詳細に調査しても、
エージェントによるタレントへの投資については何も言及がなされておらず、
拙著でも芸能事務所によるタレントへの投資についてはほとんど触れていない。

その後、たびたび「芸能事務所はタレントに投資をしているのではないか?」
と質問をされることがあったので、ここでは改めてこの問題について考えてみたい。

結論から言うと、アメリカのエージェントはタレントに投資をしていない。

これについては『ハリウッド・ドリーム』(田村英里子著/文藝春秋)に詳しい

田村英里子と言えば、日本ではサンミュージックに所属し、1990年代にアイドル歌手として活動した後、
2000年にかねてからの夢であったアメリカでの映画出演を実現するため渡米し、
NBCのテレビドラマ『HEROES』や『DRAGONBALL EVOLUTION』などのメジャー作品に多数出演し、実績を残した。

田村は日本でのキャリアを捨て何のバックアップもなく、単身で渡米した。
最初はアパート探しや英語が話せるようになるまで苦労をしている。

そんな彼女の芸能活動のスタートとなったのがアクティング・スタジオ、つまり俳優養成学校である。
アメリカではアクティング・コーチの存在が社会的な地位として確立されており、
撮影現場でアクティング・コーチが俳優を指導することも珍しくないという。