東日本大震災後、原子力発電の再稼働は5基にとどまっている。原子力発電比率の低下は、日本経済にどのような影響を与えるのだろうか。

原子力発電比率の低下により最大で累計13兆円GDPが減少
2017年11月、電力中央研究所は、原子力発電の比率が現在の国の計画である「2030年度・20〜22%程度」から「15%」へと低下した場合に、日本経済へ与える影響の分析結果を公表した。それによると、2030年断面の実質GDPは、最大で約2.7兆円減少するという。

同研究所の浜潟主任研究員は「実質GDPは、原子力の不足分をLNG火力で補てんすると約2.5兆円、再生可能エネルギーで補てんすると約2.7兆円、それぞれ減少する。2017〜2030年までの累計では、LNG火力で補てんする場合は約11兆円、再生可能エネルギーで補てんする場合は約13兆円の減少となる」と語る。

減少の理由は、原子力発電の減少分を、発電コストの高い電力で補うため。原子力発電所の再稼働の遅れが、日本経済への打撃となることが浮き彫りとなった。

「家計への影響を一人あたりGDPでみると、2030年断面で年間約2.1〜2.3万円の減少となり、これを消費税の支払いに換算すると、一人あたり2カ月分程度の負担感となる」(浜潟氏)

東日本大震災後、福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、新たな基準(新規制基準)が施行された。この基準にもとづき、現在、原子力規制委員会による審査が行われているが、これまでに再稼働したのは5基にとどまっている(2018年2月現在)。

エネルギー政策に詳しい社会保障経済研究所の石川代表は、「将来の電源構成を考える際は、経済性も重要な要素の1つ。再エネの高い調達コストを薄めるには、原発の有効活用が不可欠だ」と説明する。

特定のエネルギー源に依存することなく、バランスのとれた状態であることを意味する、「エネルギーミックス」という言葉がある。エネルギー政策は、「安全確保」を大前提として、「エネルギーの安定供給」「経済性」「環境保全」を同時に達成する観点から検討していくことが重要だ。

「この4条件の同時達成は極めて重要だ」と、東京大学生産技術研究所の金子研究顧問(工学博士)も指摘する。

「原子力発電比率の低下は日本経済に広範な影響を与える。今回の分析では、原子力が重要な役割を果たすことが確認できた」と浜潟氏が語るように、2030年度の目標達成には、安全性を確認した原子力発電所の再稼働に加え、運転期間の延長も必須となる。

エネルギー資源に乏しく自給率がわずか8%しかない日本のエネルギーの将来はどうあるべきか、国民一人ひとりが冷静に考えなければならないし、その実現に向けては国の役割も求められる。
http://president.jp/articles/-/24627