2026.01.02
がんサバイバーである解剖学者の養老孟司氏の治療にあたる医師・中川恵一氏は、入院のたびに本人から「病院のメシはまずい」と嘆かれてきたという。QOL(生活の質)は医療現場においても重視されてきているものの、病院食への患者の不満はいまも根強い。その現実を、医師の立場から考える。
『病気と折り合う芸がいる』より一部抜粋、再構成してお届けする。
養老孟司
中川恵一
『病気と折り合う芸がいる』#2
病院の食事はなぜまずいのか?
かつては抗がん剤というと、患者さんは吐き気などの副作用がひどく、つらかったと言われていました。
しかし、今は抗がん剤と一緒に吐き気止めの薬も点滴しますし、かつての抗がん剤と比べると、ずいぶん楽になったと思います。
医療ではQOLという言葉をよく使います。クオリティ・オブ・ライフの略で、日本語では「生活の質」と言います。
「医者は病気を治してナンボ」とか言われた時代もありましたが、今はそうではありません。患者さんの生活の質をどれだけ維持できるかが、医療の役割の1つになっています。
入院患者の生活の質を考えたとき、私は病院食がとても重要だと以前から考えていました。
養老先生は、入院するたびに「病院のメシはまずい」とボヤいていました。「どうしてあそこまでまずくするのかな?」とまで言ったことすらあります。
がんで入院されている患者さんにとっては、病院食が最期の食事になる可能性もあります。人生最期の食事がまずいというのは気の毒なことです。
病院食のまずさが、いかに生活の質を低下させるのか、私の母のエピソードを紹介することにします。
私の母は現在90歳で、高齢者施設に入所しているのですが、24年5月に施設の看護師から電話があり、母の血中酸素飽和度が88%しかないと言われました。
血中酸素飽和度というのは、指先にクリップをつけて測ります。手術や入院したことのある人は経験があると思います。正常値は96%以上ですから、88%は危険な状態です。息切れの症状もあるようです。
すぐに東大病院に連れてきてもらい、CTを撮ったところ、肺全体に肺炎の所見が認められ、そのまま入院となりました。
いわゆる高齢者にありがちな誤嚥性肺炎で、重篤なものではなかったので、数日で退院できましたが、その間、母は「病院のメシはまずい」と愚痴をこぼしていました。自分が入居している施設の食事よりまずいとも言っていました。
https://shueisha.online/articles/-/256114
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病院食にかけるコストが安すぎる
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