ポアンカレによるカオスの発見と先見性
20世紀初頭、カオス現象と呼ばれるこの不規則な動きが存在することに初めて気がついたのは、フランスの数学者ポアンカレである。
解くための微分方程式の研究を進めるうちに、軌道が無限に分岐するという奇妙な現象に彼は気がつき、この想定外の結果に彼はとても驚くことにある。

ポアンカレが研究していた時期は、1927年に発表された量子力学の「不確定性原理」が発表される20年以上前のことである。
力学の微分方程式は、少なくとも数学的には未来を完全に予測するという考えが受け入れられていた。

また、確率的な現象は確率論として定着していたが、物事の初期状態さえ知っていれば、未来は完全に予測できると考えられていた。
未来を予測できないのは、初期状態に関する情報が不足しているからだと理解されていたのである。

ポアンカレが発見した軌道の無限分岐は、その常識を破ってしまった。
初期状態が少しでも違うと結果が大幅に違ってくるということは「初期値鋭敏性」と呼ばれる、カオス現象がもつ性質の代表例だ。
カオス現象では初期値鋭敏性のために予測が不可能になるわけだが、未来が決定していないということではない。
正しく言えば「未来は決定しているが、予測ができない。」のである。

決定されているのに予測できない未来?世界観を覆した数学理論?
https://www.kyoto-su.ac.jp/project/st/st11_01.html

カオス現象の初期値鋭敏性は気象の世界では「バタフライ効果」として知られている。
1匹の蝶の羽ばたきで大気が揺らぐ結果、数カ月、数年先の気象に影響を与えることがあるというたとえだ。
コンピュータによる計算の結果、バタフライ効果が生じることが、すでに確認されている。(つまり、仮説ではない。)

天体の運動が無限分岐することの重大性を、ポアンカレは気がついていた。初期値鋭敏性や気象予報、物事の確率的振る舞いに関して、次のような文章を残している。

われわれが気づかないようなごく小さな原因によって、われわれが認めざるを得ないような重大な効果が引き起こされることがある。
このようなとき、われわれはこの効果が偶然に起こったという言い方をする。
もしも、われわれが自然の法則と宇宙の最初の瞬間の状態を正確に知ることができたとしたら、その後のあらゆる瞬時における同じこの宇宙の状態を、われわれは正確に予言できるはずである。

しかし、たとえ自然の法則にそれ以上の秘密がなくなったとしても、われわれはその最初の状態を近似的にしか知りえない。
もしもそのことが、その後の状態を同程度の近似で予見するのを許すことになるなら、このことこそがわれわれに必要なすべてであって、このときわれわれはその現象が予測され、そしてその現象は法則に支配されているというのである。

しかるに、つねに、このようになるとは限らないのであって、ときには初期条件のちょっとした違いが、最終的に起こる諸現象のなかで非常に大きな差異をもたらすようなことも起こるかもしれない。
初期条件の小さな誤差が、最後に莫大な誤差を作り出すこともあるかもしれないのだ。このようにして、予測は不可能となり、われわれは偶然によって起こる現象を得るのである。

気象の数値予報は観測精度やスパコンの計算速度がどんなに向上しても、完全に予報することはできない。
カオス現象は初期状態において無限の精度を必要とし、そのために必要なコンピュータのメモリーや演算速度は無限でなければなないからだ。
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/daf1e56d0751c928592e75282d69835e