腎臓病悪化に伴う透析患者の増加が社会問題となる中、市立大津市民病院の内科診療部長(腎臓内科部門)、中沢純医師(46)が開発した腎機能の長期推移を示す図「エルテップ」(LTEP=Lоng term eGFR plоt)が、透析患者抑制に大きな成果をあげている。中沢医師が担当した91症例だけでも、将来の透析医療費削減額が約58億円にのぼると試算。エルテップの導入は全国の病院に広がりつつあるといい、中沢医師は「早期発見、早期治療で腎臓病の予後が改善できるエルテップを必須の診療ツールにしていきたい」と意気込んでいる。
腎臓は、糸球体(しきゅうたい)と呼ばれるところで血液を濾過(ろか)して尿を作る。年齢、性別、体内の老廃物である血清クレアチニン値を用いて算出する濾過量(eGFR、推算糸球体濾過量)が、腎機能の指標とされている。
ただ、eGFRは普段から比較的大きく変動するため、短期間の推移を観察しても、悪化に気付くことが難しかった。
研修医時代に気付いていた
中沢医師は、このeGFRの長期推移を一括して表示するエルテップを開発し、平成28年から市立大津市民病院で導入した。
「20年ほど前の研修医時代、腎機能が悪くなって腎臓内科に紹介されてきた患者が、治療しても1年ほどで透析になっていた」と中沢医師は振り返る。当時から腎機能の長期推移を観察することで、腎臓病の予後がわかることは知られていた。患者が腎臓内科に紹介される前の腎機能推移を中沢医師が確認したところ、多くが何年も前から同じ速度で悪化し、透析になっていたことに気付いた。
「当時は日々の診察に忙殺され、対策を取れなかった。指導的立場となり、『何とかしないと』とエルテップを導入した。一般的な診療ツールになれば、多くの患者が将来の透析リスクを回避できる可能性が高くなり、透析医療費の大幅削減にもつながる」
透析医療費約58億円削減
同病院でエルテップを導入後、令和2年時点の調査で、中沢医師が担当する外来定期通院中の患者のうち91症例で大きく腎臓病の予後が改善した。透析医療費を1人年間500万円とすると、この改善で計57億9215万円が将来にわたって削減されるという試算になった。
たとえばある男性(58)の場合、保存されていた2・4年間のeGFRを用いたエルテップで、治療をしない場合は59歳3カ月から60歳7カ月に末期腎不全により透析が必要になると推測された。しかし、薬物療法、栄養指導、教育入院など治療を実施したことによって、透析導入時期の延長にとどまらず、透析を必要としなくなる見込みになったという。
58歳男性の平均余命を25・56歳(厚生労働省の平成30年簡易生命表)とすると、導入開始予測の60歳前後からの透析医療費約1億1630万円が削減されたことになる。
全国の病院・薬局が導入
日本透析医学会によると、わが国の令和2年末の透析患者数は約34万8千人、平均年齢は69・40歳。年間の透析医療費は国民医療費の約4%にあたる約1・7兆円という。
滋賀県の状況をみると、2年末の透析患者は3344人。平成16年〜令和2年をみると、毎年約72人ずつ増加しており、透析医療費にすると毎年約3億6千万円ずつ増加。中沢医師は「到底、持続可能な額ではない」という。
中沢医師の働きかけもあり、エルテップの導入は全国に広がっている。今年7月末現在、滋賀、京都の2府県では、20病院・41診療所。全国では39病院・61診療所が導入。薬局・薬剤部も全国で90施設がエルテップを導入している。
中沢医師は「透析リスクの早期発見だけでなく、治療強化が必要な症例の判別や、治療が実際に予後の改善につながっているかを見るにはエルテップなしには困難といえる」と訴えている。
https://www.sankei.com/article/20220816-SQ7AUNOEO5MBDJRE3U6QAH7PKY/
腎臓は、糸球体(しきゅうたい)と呼ばれるところで血液を濾過(ろか)して尿を作る。年齢、性別、体内の老廃物である血清クレアチニン値を用いて算出する濾過量(eGFR、推算糸球体濾過量)が、腎機能の指標とされている。
ただ、eGFRは普段から比較的大きく変動するため、短期間の推移を観察しても、悪化に気付くことが難しかった。
研修医時代に気付いていた
中沢医師は、このeGFRの長期推移を一括して表示するエルテップを開発し、平成28年から市立大津市民病院で導入した。
「20年ほど前の研修医時代、腎機能が悪くなって腎臓内科に紹介されてきた患者が、治療しても1年ほどで透析になっていた」と中沢医師は振り返る。当時から腎機能の長期推移を観察することで、腎臓病の予後がわかることは知られていた。患者が腎臓内科に紹介される前の腎機能推移を中沢医師が確認したところ、多くが何年も前から同じ速度で悪化し、透析になっていたことに気付いた。
「当時は日々の診察に忙殺され、対策を取れなかった。指導的立場となり、『何とかしないと』とエルテップを導入した。一般的な診療ツールになれば、多くの患者が将来の透析リスクを回避できる可能性が高くなり、透析医療費の大幅削減にもつながる」
透析医療費約58億円削減
同病院でエルテップを導入後、令和2年時点の調査で、中沢医師が担当する外来定期通院中の患者のうち91症例で大きく腎臓病の予後が改善した。透析医療費を1人年間500万円とすると、この改善で計57億9215万円が将来にわたって削減されるという試算になった。
たとえばある男性(58)の場合、保存されていた2・4年間のeGFRを用いたエルテップで、治療をしない場合は59歳3カ月から60歳7カ月に末期腎不全により透析が必要になると推測された。しかし、薬物療法、栄養指導、教育入院など治療を実施したことによって、透析導入時期の延長にとどまらず、透析を必要としなくなる見込みになったという。
58歳男性の平均余命を25・56歳(厚生労働省の平成30年簡易生命表)とすると、導入開始予測の60歳前後からの透析医療費約1億1630万円が削減されたことになる。
全国の病院・薬局が導入
日本透析医学会によると、わが国の令和2年末の透析患者数は約34万8千人、平均年齢は69・40歳。年間の透析医療費は国民医療費の約4%にあたる約1・7兆円という。
滋賀県の状況をみると、2年末の透析患者は3344人。平成16年〜令和2年をみると、毎年約72人ずつ増加しており、透析医療費にすると毎年約3億6千万円ずつ増加。中沢医師は「到底、持続可能な額ではない」という。
中沢医師の働きかけもあり、エルテップの導入は全国に広がっている。今年7月末現在、滋賀、京都の2府県では、20病院・41診療所。全国では39病院・61診療所が導入。薬局・薬剤部も全国で90施設がエルテップを導入している。
中沢医師は「透析リスクの早期発見だけでなく、治療強化が必要な症例の判別や、治療が実際に予後の改善につながっているかを見るにはエルテップなしには困難といえる」と訴えている。
https://www.sankei.com/article/20220816-SQ7AUNOEO5MBDJRE3U6QAH7PKY/