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さよなら、ミューズ
作者:ニンポー
https://novel18.syosetu.com/n6089hi/

 2021年11月28日、僕の世界観は大きく変わった。

知り合いが務めている秋葉原のコンカフェに行ったあと、僕はミリバール山田とロープリとリスナー2人で錦糸町の歓楽街を彷徨っていた。5人の目的はピンサロに行く事だった。

 ミリバール山田とロープリは僕が41歳にもなって童貞で居る事、それを拗らせて女性に対し歪んだ崇拝を持っている事を懸念していた。このままではこの惨めな41歳は惨めなまま人生を終えるだろうと。そこで彼らは僕に対し歪んだ幻想を打ち砕いて欲しいという純粋な好意から僕に人生経験を積ませようとエッチなお店に行く事を提案したのだった。

 最初、その提案を聞いたとき僕は戸惑った。41年間、童貞を守り通して、女性とキスすらした事のない男がエッチなお店になんて行けるのか、心の準備はできていなかった。だが一方で夜の空気が僕の背中を押すのを感じた。

 僕は決意した。「そうさ、いつまでも子供のままじゃいられない。これは神が与えたもうた機会なのだ」そんな神秘的な考えが頭をよぎる。

 そしてある一軒の店に着いた。時間の関係上、僕とロープリとリスナー1人がその店で、あとのミリバール山田ともう一人のリスナーは別の店に行く事になりそこで2グループに別れた。

 料金は30分8000円。僕の料金はロープリが持ってくれる事になっていたが、儀礼的に僕は自分の分を出そうとしたが、ロープリはそれを断り、僕の分の料金を払った。

 店の中へと入った途端、薄暗い中、いくつかのソファーが並び、まさにめくるめく行為が繰り広げられていたが、そんなものも頭に入らず、ただ促された席に着く。よくわからないBGMが流れる店内でしばらく待つ。心臓が高鳴り、ペットボトルのお茶をゴクリと飲む。頭はまっしろで何も考えられない。

 そうこうしてる内に女性が僕の隣に座る。何て挨拶したのかも覚えていない。顔すらまともに見られなかった。何か声を掛けられたような気がする。恥ずかしさと緊張で女性の顔をまともに見れなかったが視界の端に捉えた女性は恐らく30代半ばかもしかしたら僕と同じくらいの年頃の女性だったのかもしれない。

 僕がなかなかズボンを脱がずにいると、「緊張してる?」と優しく声を掛けてくれ、僕はそうだと答える。そして僕は「こういう店に来るの初めてなんです」と言ったら彼女は「そうなんだ、そういう人も来ますよ」と言い、僕は少し緊張の糸がほどけてゆくような気がした。

 そんな風に少し雑談をして、ついに意を決してズボンとパンツを脱ぐ。僕の股間が露わになあった。その子供のような小さなものに彼女は何の感想も言う事なく、「仰向けになってください」という。僕は恥ずかしながらも仰向けになり、そして僕の縮こまったモノに彼女の指がふれ、なにか温かいものに包まれるような感覚がした。彼女の口が僕のそれを含み、優しく愛撫する。

 だが、僕は微塵もエロティックな気持ちになれず、まるで病院で手術を受けてる患者のような全てを任せるような受け身の気持ちだったので、僕のそれはピクリとも反応せず、ただ虚しく時が過ぎる。そしてくすぐったさと恥ずかしさで僕の顔が歪む。それを見て彼女は「くすぐったい?」と聞いてきたのでそうだと答える。僕は、このシチュエーションでエレクトするのは不可能だと諦めに似た気持ちで体を起こす。彼女は申し訳なさそうに「力足らずでごめんなさい」と言う。

 そして二人の会話が始まる。僕が41歳で童貞だという事。最近、ED気味だという事を告げ、立たなかった責任は僕にあると慰める。それから僕が秋葉原のコンカフェ帰りだという事、そして彼女が東北出身だという事など話し、時間が過ぎる。彼女にお礼を言い、その店を後にした。

 その後、ファミレスで5人で感想などを言い合った。ハズレだっただのアタリだっただのイっただのイかなかっただの猥談に花を咲かせ、何か僕は大人の階段を登ったような気分になり、嬉しかった。

 家路につき、一夜明けたあと何故か悲しくなった。僕はもう少年ではなく、男なのだという寂しさ。そして、3人の女性の事を思う。僕が好きになった女性達の事を。もし僕が風俗に行った事を知ったら彼女達はどう思うか。軽蔑されるのかな。嫌われるのかな。と。過去の事とは言え、一度は恋焦がれた女性達。もし僕が少年のままだったら、もしかしたらまたいつかどこかで邂逅するかもしれなかった彼女達。だが僕はもうあの頃の純粋な僕ではなく、下腹部を初めて会った人に触られ、口に含まれるという、言ってみれば俗っぽいただの男になってしまった。そんな僕と彼女達の縁が切れたような、そんな感覚。

 さよなら、少年時代の僕。さよなら、ミューズ。