>>1の水面下の話

 しかし、祝杯の裏で、不気味な警告音が鳴り響いていた。その3年前の15年。世界保健機関(WHO)の専門機関である国際がん研究機関(IARC)は、モンサントのドル箱商品であるラウンドアップの主成分グリホサートを「グループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)」に分類し、これをきっかけにして米国法律事務所がモンサントを相手取って、ラウンドアップが原因でがんになったとする大規模集団訴訟を起こしていたのだ。
 ところが、バイエル経営陣は、資産査定を行った弁護士たちの言葉を信じていた。「心配はいりません。米国の環境保護庁(EPA)は40年にわたり『発がん性なし』と認めています。世界の規制当局も、IARCの判断は間違っていると言っています。科学と規制当局は我々の味方です」。
 彼らは、米国の「不法行為法」が、科学的真実だけでなく、「物語」によって動く魔物であることを理解していなかったのだ。そして、買収契約書のインクが乾くよりも早く、カリフォルニアの裁判所で最初の爆弾が破裂し、世界の企業合併史上、最も悲惨な計算違いの一つとして記録されることになった。