>>45

アインシュタインは宇宙全体にも重力方程式を当てはめましたが、その計算によれば宇宙の時空は非常に不安定になって収縮するか膨張することがわかりました。永遠に存続する“不滅の宇宙”を想定していたアインシュタインは苦渋の選択として、ある種の反発力を示す「宇宙項」を重力方程式に付け加えて不変の宇宙を生み出しました。
後に宇宙が膨張していることが明らかになると、アインシュタインはこの宇宙項を「わが人生最大の失敗」と悔やんだと伝えられています(現在、宇宙項は正体不明の「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」として復活しています。※3)。

量子論はそれまでの物理学の常識に強烈なボディーブローをくらわせました。この理論は物質の“実在”や因果関係をあいまいにして、従来の物理学のよりどころをグラグラとよろめかせたのです。電子は粒子であると同時に波でもある、粒子の位置は確率的にしかわからない、粒子は観測した瞬間に状態が決定する、ある種の情報はどんなに遠方でも一瞬で伝わる、等々です。これらはいずれも量子論の予言ですが、感覚的には信じがたい話ばかりです。
量子論によれば、ペアになった粒子では片方の情報が一瞬にしてもうひとつの粒子に伝わることがあります

当初、量子論の数々の予測はアインシュタインをはじめとする多くの科学者の批判を浴びました。しかし、現在では量子論の予測の大部分が観測や実験で確認されています。現代社会を支えるさまざまな工業製品も、量子論的効果を無視して設計することはできません。
量子論は力の解釈も変貌させました。たとえば、電磁気力は“力を伝達する空間”、すなわち電磁場を通じて物質に作用するとされてきました(※4)。これに対して量子論では、物質が“電磁場の粒子”である光子を吸収あるいは放出することによって電磁気力が伝わるとしています。いわば、粒子間の“キャッチボール”が力の正体だというのです。
では、一般相対性理論が示した重力も量子論的な描像で理解できるのでしょうか? 物理学者たちはそう考えています。つまり、電磁場の粒子である光子のように重力場にも力を伝える粒子(重力子=グラビトン)があり、それらが物質間で交換されることによって重力は伝わると見ているのです。しかし実際には、現代物理学は重力を量子論的に表せずにいます。