脳は思い出すたびに記憶を書き換えている――なぜそんな余計なことを?
公開日2025.12.10 20:30:41 WEDNESDAY
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/189141
イギリスのイースト・アングリア大学(UEA)と米テキサス大学ダラス校の研究者がまとめた最新の研究レビューによると、記憶は写真やビデオのように過去そのままを再生するものではなく、呼び出すごとに現在の状況に合わせて再構成される即興作品のようなものであることが示されました。
また研究では新たに作られた即興作品が再び記憶されることで、記憶が徐々に書き換わる仕組みも解説されています。
>>心理学者ロフタス博士の研究など、誤った情報が入り込むと人は実際になかった出来事さえ「記憶した」と思い込むケースがあることが示されています。
>>積み重ねられた研究結果は、私たちの頭に浮かぶ「思い出」という記憶表象は、過去の出来事の完全な再演ではなく、その場その場で再構成された即興の生配信であることを示しています。
>>問題は、その演出が「思い出した瞬間」に即興で行われるがゆえに、どうしても今の気分や知識など現在の状況に影響されて不正確になってしまう点です。
>>演出された記憶は再び海馬(長期記憶の中継を担う脳の部位)に保存し直されることがあるのです。
>>つまり、思い出すたびに記憶内容がその時の自分に合わせて少しずつ書き換わっていくという現象が起こります。
>>(※子供の頃の誕生日シーンを詳細に思い出したとして、もしケーキのクリームの質感や蠟燭の火のゆらめき、空気感までイメージできるとしたら、その部分はおそらくその場でつくられたものです。)
>>さらに重要なのは、この再現された記憶が再び保存され直すという点です。
>>こうした想起→再保存のサイクルが繰り返されると、オリジナルの体験から現在の記憶痕跡へと因果の鎖が何重にも連なっていくことになります。
>>記憶が「思い出されたときに一時的にゆるむ」という性質(再固定化)を利用して、人間の記憶の一部を意図的に変化させる実験がいくつも報告されています。
>>MRIを使用した実験では、「特定の顔への好意」を上下させた研究があります。
>>まず被験者の脳を分析して「好ましい顔を見ているときのパターン」や「嫌いな顔を見ているときのパターン」を調べます。
>>次にある人物の写真を見ている被験者に報酬を与えるなどの刺激を与え、事前に調べた「好ましい顔を見ているときのパターン」や「嫌いな顔を見ているときのパターン」にMRI内部の被験者の脳活動を近づける実験が行われました。
>>すると被験者が顔写真に感じていた好ましさ評価を上げたり下げたり変化させられる可能性が示されました。
>>裁判においても時間の経過や尋問の仕方によって証言内容が変質し得ることを念頭に置き、慎重に判断することが重要だと示唆されます。