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出版社サイトより
www.kyoritsu-pub.co.jp/book/b10011434.html

(まえがきより抜粋)
 このシリーズの中の一冊を執筆するようにと最初にお勧めいただいたとき、大槻義彦先生からの課題は「拡散」であった。「拡散」を語るには、「ブラウン運動」を避けて通ることはできない。ブラウン運動を調べているうちに、その歴史的経緯を面白く思うようになった。もちろん、ブラウン運動の全容を述べるということになると、植物学に始まり、物理学、数学、天体物理学、気象学、生態学、通信工学から経済の動きや株価の予測に至るまで、およそ、ランダムな過程が全体動向を支配しているすべての事象に言及しなければならない。これはそもそも、本シリーズの目指すところではないし、著者の興味もそこにない。
 本シリーズの編集方針は、それぞれのテーマを、その分野の専門家ではない研究者に依頼し、その研究者が苦労しながらどのようにその問題を把握していていったかを伝えることにより、読者の理解の一助となす点にあると聞かされた。当該テーマについていえば、ブラウン運動に関する著者の把握の道程は、そのまま、物理学史においてブラウン運動の果たした役割の認識と重なっている。本書では、そこに焦点を絞ることにした。
 ブラウン運動という言葉を聞いたとき、それから連想するものは人によってかなり開きがあるようである。上述したように、ブラウン運動の理論の背景にある確率過程論的な考え方は、予想以上の広い分野で、それぞれ固有のとらえかたでもって展開がなされている。そういうなかで、本書では、あくまでも、自然現象としてのブラウン運動を対象に考えを進めて行くことにする。
 本書は科学史の本ではないが、科学史研究家であった故広重徹氏の姿勢が、なぜか執筆中、常に念頭にあった。広重氏の姿勢が一貫してそうであったように、伝説に頼ったり、他の本から安易に引き写したりすることなく、必要のものについては能う限り原典に当たり、不可能なものは信頼に足る論文・研究書に拠るという方針を守る努力をした。