■「肥満」と「炎症」

新型コロナウイルスの巨大津波にのみ込まれたイタリアの病院の集中治療室(ICU)の中の様子を見た時から非常に気になっていたことがあります。患者のほぼ全員が肥満男性だったことです。

日本を含めアジアでどうしてこれだけ被害が少ないのでしょうか。キーワードとして「肥満」と「炎症」が欧米ではクローズアップされています。

2015年に発表された論文によると、ボディマス指数が30以上(肥満)だとワクチンの効き目が十分ではなかったそうです。こうした相関関係は肥満の病院職員がB型肝炎ワクチンを摂取した1985年に最初に観察されています。

2009年の新型インフルエンザ・パンデミックでも肥満集団で発症と合併症リスクが高かったそうです。ボディマス指数が40以上の高度肥満感染者はICUに運び込まれる割合は肥満でない感染者の2倍でした。肥満によってT細胞応答が損なわれる可能性が示唆されました。

ボディマス指数は体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割った指数です。

低体重(18.5以下)

標準(18.5〜24.9)

過体重(25.0〜29.9)

肥満(30〜34.9)

高度肥満(35以上)

■ICUに運び込まれた英首相は太り過ぎ

イギリスのボリス・ジョンソン首相(55)は新型コロナウイルスに感染して一時、ICUに運び込まれ、生死の境をさまよいました。パートナーのキャリー・シモンズさん(32)と交際を始めてから随分ダイエットしました。

2018年12月時点で体重約105キログラム、身長約175センチ。当時のボディマス指数は34.11で高度肥満の寸前。一命を取り留めてから随分、痩せました。

イングランド・ウェールズ、北アイルランドで英国民医療サービス(NHS)の集中治療を受けた新型コロナウイルスの患者を調査した報告書によると、患者の平均年齢は58.6歳。男性71.3%、女性28.7%。

ボディマス指数25〜30未満は全体の34.9%、30〜40未満31%、40以上7.5%と、ICUに運び込まれる患者はジョンソン首相のように太った中年以上の男性が多いのが特徴でした。

■コロナと肥満リスク

大きな被害を出している欧米諸国と日本を比較してみました。
https://rpr.c.yimg.jp/im_siggjXOO1MQug8Q8d8ot_6O6ug---x800-n1/amd/20200513-00178351-roupeiro-001-2-view.png

英オックスフォード大学のチームは2月1日から4月25日までNHS(英国民医療サービス)の約1743万人の健康記録を分析、新型コロナウイルス感染が原因で死亡していたのは5683人。コロナ死の主な要因とみなされるのは次の通りです。

・80歳以上のコロナ死亡率は50〜60歳の12.64倍(ハザード比)

・男性のコロナ死亡率は女性の1.99倍

・ボディマス指数が40以上のコロナ死亡率は標準の2.27倍

・黒人のコロナ死亡率は白人の1.71倍

米ニューヨーク大学のチームがニューヨーク市のコロナ患者4103人を調べたところ、同じように年齢と肥満が大きなリスクになっていました。

ボディマス指数30未満 1(オッズ比)

ボディマス指数30〜40 4.26

ボディマス指数40超  6.2

日本肥満症予防協会の松澤佑次理事長は筆者の取材に「肥満でも男性の重症化リスクが最も高いことから、男性に多い内臓脂肪の蓄積が大きな要因になっていることが考えられる。肥大して蓄積した内臓脂肪細胞から、TNFαやIL-6などの炎症性のアディポサイトカインが大量産生されるとともに、アディポネクチンのような抗炎症性アディポサイトカインの産生減少がもたらされて、脂肪組織の慢性炎症が起こっており、免疫系の暴走であるサイトカインストームが起きやすくなる」と解説します。

「自然免疫は50歳前後から低下し始め、70歳から急激に下がる。獲得免疫も年齢とともに衰える。免疫システムはサイトカインを過剰生産することによってこの赤字を補おうとする。これが炎症の原因となる。新型コロナウイルスでは肥満によるアディポサイトカイン産生調節の破綻がサイトカインストームを悪化させ、病態に影響しているのではないかと考えている」

「欧米諸国で被害が拡大し、日本ではそれほど死者が増えなかった理由に肥満が関係しているかどうかは今後の研究を待たなければいけない」

「肥満」が、対策がぬるいのに死者が少ないのはなぜと世界に首を傾げさせている「日本のナゾ」を解くカギの一つになるかもしれません。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20200513-00178351/