乗客が新型コロナウイルスに感染したクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号のような閉鎖環境は、ウイルスを理解するための貴重な機会を提供してくれる。

2020年2月1日、数日前に香港でクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」から下船した乗客が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)検査で陽性と判定された。同船は2月3日に横浜港に到着し、ただちに乗客・乗員3711人を乗せたまま検疫を受けた。翌月までに、船内では看護師を含む700人以上の感染者が発生し、数週間の間、中国以外では最大の集団感染発生の場となっていた。

クルーズ船という環境は、閉鎖的であることと、感染しやすい高齢者が乗客に占める比率が高いことから、感染症の集団発生が起きやすい。ダイヤモンド・プリンセス号での集団発生の後、少なくとも25隻のクルーズ船でCOVID-19の症例が確認されている。カリフォルニア州の沖合に隔離されたグランド・プリンセス号では78人の症例が発生した。帰国した乗客を感染源とする集団発生も、各国で見られるようになった。

スタンフォード大学(米国カリフォルニア州)の疫学者John Ioannidisは、「クルーズ船は、どのような人たちがそこにいるのか、そしてリスクを持っているかどうかを正確に知ることができますし、全員を調査することが可能です」と話す。

日本の公衆衛生当局はダイヤモンド・プリンセス号で3000件以上の検査を行った。高齢の乗客や症状のある患者が優先的に検査を受けた。複数回の検査を受けた乗客もおり、時間の経過とともにウイルスが拡散していく様子を知ることができた。乗客・乗員のほぼ全員を検査したことで、軽症の患者や無症状の患者を含め実際に何人が感染しているかを判断するのに役立った。感染症の集団発生例の多くは一般の集団で起こるため、こうした症例は特定できないことが多い。

ある研究チームはダイヤモンド・プリンセス号のデータを用いて、2月20日の時点で船内の感染者の18%が無症状であったとEurosurveillance で報告している1。「これは相当高い割合です」と、著者の1人であるジョージア州立大学(米国アトランタ)の数理疫学者Gerardo Chowellは言う。乗客には重症化しやすい高齢者が多いので、一般の集団では無症状の患者の割合はさらに高くなるだろうとChowellは話す。

続きはソースで

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200513

原文:Nature (2020-03-26) | doi: 10.1038/d41586-020-00885-w | What the cruise-ship outbreaks reveal about COVID-19

https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v17/n5/%E3%82%AF%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%82%BA%E8%88%B9%E3%81%A7%E3%81%AE%E9%9B%86%E5%9B%A3%E7%99%BA%E7%94%9F%E3%81%8B%E3%82%89COVID-19%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E5%88%86%E3%81%8B%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%93%E3%81%A8/102984