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■「巨大なパーティ用風船でロケットを軌道から回収する」

マスク氏はこの日、「クレイジーに聞こえるかもしれないが……」と前置きした上で、次のように語った。

「巨大なパーティ用の風船を使って、ロケットの上段を軌道速度から回収することを考えている。
最終的にはバウンスハウスの上に着陸させる」。

"巨大なパーティ用の風船"というのは、おそらくジョークで、
実際には風船のように膨らむ装置のことを指していると考えられる。

宇宙開発の世界では、何十年も前から、宇宙船から機体を覆うようにして風船を膨らませ、
大気圏に再突入、降下する、「バリュート」や「柔軟構造大気突入機」と呼ばれる技術が研究されている。


アニメ『機動戦士Ζガンダム』などでもおなじみのこの技術は、機体から風船を膨らませることで、
大気に対する断面積(対気断面積)を大きくし、弾道係数を小さくすることを目的としている。
弾道係数とは、物体の質量を断面積と抗力係数で割った値のことで、この値が小さいほど、
その物体はゆっくり落下することを意味する。

弾道係数が小さければ、大気密度の薄い高高度での減速が可能になり、再突入時の空力加熱を小さくすることができる。
そのため、分厚い耐熱シールドがなくても再突入でき、パラシュートがなくても比較的ゆっくり降下できる。
さらにこの風船そのものがクッションになるため、そのまま軟着陸することもできる。

はたしてスペースXが考えているものがバリュートかどうかは不明だが、
マスク氏は「これ(巨大なパーティ用風船)により、すべての速度域において、
弾道係数を2桁下げることができる」と語っており、
風船によって機体の対気断面積を増やすことを目的としているのは間違いないようである。

降下してきたロケット上段が着陸する「バウンスハウス」というのは、お祭りやデパートの屋上などにある、
空気で膨らむトランポリン状の遊具のこと。おそらくバリュートだけでは速度を十分に落としきれず、
かといってロケットを逆噴射したりパラシュートを積んだりすると、そのぶん重くなってしまうので、
地上(あるいは海上)にクッションを用意して受け止める、という意味だろう。

スペースXはすでに、フェアリングを回収するために巨大な網を張った船を運用しているので、
その技術を応用するのかもしれない。

■バリュートか、それとも?

バリュートはかねてより世界中で研究・開発が行われている。

たとえば欧州宇宙機関(ESA)とロシアは「IRDT」という計画で、
2000年から2005年にかけてロケットによる5回の飛行実験を行い、
そのうち最初の1回はロケットの上段機体の回収も目指していたが、
展開に失敗したり、回収に失敗したり、あるいはロケット側が失敗したりと、すべて失敗という結果に終わっている。

またNASAでは2010年代から、
「IRVE」(Inflatable Re-entry Vehicle Experiment)や「HIAD」(Hypersonic Inflatable Aerodynamic Decelerator)と呼ばれる計画で、
実際にロケットに積んで宇宙へ飛ばし、バリュートを展開して回収する試験に成功している。
日本の宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究所(JAXA/ISAS)も、2017年に展開型エアロシェル実験超小型衛星(EGG)で、
バリュートの試験を行い、展開や再突入の実証を行った。

バリュートの研究はまだ十分ではなく、実用化までに必要なハードルもまだ多い。
たとえば再突入時の速度が遅いとはいえ、それなりの熱を受けるため、
風船の素材には軽くて丈夫な新素材が必要になる。その風船を確実に膨らませる仕組みも必要になるし、
風船のような柔らかい構造物が、再突入から着陸までの間にどのように挙動するか、
それが機体にどのような影響を与えるかも十分にはわかっていない。

ましてや、ファルコン9のような大型ロケットの第2段機体という大きな物体をバリュートで回収、
着陸させようというのは、IRDT以外に行われたことはなく、それも失敗しているため、成功例はない。

はたしてスペースXは、世界初の実用的な、
それも大型ロケットの機体を回収できるほどの巨大なバリュートの開発に乗り出しているのか。
それとも、まったく別の新しいアイディアを試そうとしているのだろうか。

その詳細も、試験の実施時期も謎に包まれたこの構想の今後に注目したい。

マイナビニュース
https://news.mynavi.jp/article/20180419-618704/