留学生回復へ政府の策は 日本、学生の「内向き」突出
政界Zoom
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA070YV0X00C23A4000000/
 政府が新型コロナウイルス禍で人数が落ち込んだ留学生を増やそうとテコ入れを始める。海外へ日本人学生を50万人送り出し、
逆に外国から40万人受け入れる目標を掲げた。グローバルに活躍できる人材をつくり出す努力を怠ると、日本の国際競争力は
劣化する。
 「主要7カ国(G7)のメンバーと海外留学をはじめとした国際交流を推進していく」。岸田文雄首相は3月中旬の教育未来創造会議で、
5月のG7首脳会議(広島サミット)で留学の促進をテーマにすると強調した。

 かつて留学生を受け入れる意義は日本による途上国への教育分野での貢献という面があった。いまは人材確保の側面が強まる。
 日本への留学生の上位10カ国はすべてアジア諸国・地域が占める。高度人材を呼び込むには幅広い国から留学生に来てもらう
必要がある。
 「G7をはじめ教育・研究力の高い大学を多く有する先進国を念頭に留学生受け入れの戦略的な重点分野・地域の設定を」。
自民党の教育・人材力強化調査会(柴山昌彦会長)は2月、高度人材の確保へ日本が重視する地域を設定するよう政府に提言した。
 研究力の高い大学の学生を留学生として受け入れるための日本語能力の要件の緩和などが念頭にある。教育未来創造会議の
有識者からは外国人の在留資格について「留学生を優遇すべきだ」との声もあがる。

 政府は将来日本で働く留学生の増加を目指す。教育未来創造会議のワーキンググループは4月、外国人留学生の国内就職率を
33年までに6割にする目標を示した。

 米英は世界のアカデミーの中心で英語圏の強みや有名大学の存在が影響する。英語圏ではない日本へ優秀な留学生を招くには、
日本で勉強したあとに定住し働きたいと思わせるインフラや住宅、医療などの環境整備が重要になる。

川島真
東京大学大学院総合文化研究科 教授
(別の視点) 大学の現場にいる者として、いくつか問題提起したい。第一に、留学支援と共に日本人学生への奨学金をまず整備して
ほしい。授業料が払えず退学する学生も少なくない。格差は拡大している。第二に、学生の海外留学経費支援不足とともに、企業の
一括採用の文化が障碍ではないか。留学すると学年が遅れることへの恐怖は強い。第三に、本当に若者が「内向き」なのか検証が
必要。学生へのインタビューや定性分析ができているだろうか。特に、基本的に「お金がない」ことが若者の行動を制約していないか。
そして「学年進行」から外れることへの忌避感も原因ではないか。大学院生については、日本人院生が激減している以上、海外留学
が減るのは必然だ。