「東人こそ、言ひつることは頼まるれ。都の人は、ことうけのみよくて、まことなし」

 東国の人間は、言ったことはきちんと守る。京都の人は簡単に受け合うけれど、誠実さがないというわけだ。
これに対して尭蓮上人の答えはこうだ。都の人が嘘つきなわけではない。「心やわらかに、情ある」ために、人の頼みを断り切れないのだ。
しかも貧しい人が多いから、結果的に頼まれたことが実現できないのである。
東国人は、心に含みがなく、無骨で、一途に強い気性だから、できないことは「はじめより否といひて」断ってしまう。
それでも財産・実力があるから、他人からは頼みにされるのだ。
都人を弁護する議論だからこうなっているのだが、これがもし『軍鑑』作者や朝倉教景ならば、きっとこう付け加えるであろう。

 だから公家には命をあずけられないのだ、と。

 武士の世界で「頼む」というのは、己れの命をあずけることである。確実な裏付けもなく「ことうけのみ」よいような、それこそ「うろんなる」者に命はあずけられぬ。
頼むに値する武士、「頼もしい」大将とは、一を一とする、「分別」ある「有りのまま」の人物でなければならない。
(『武士道の逆襲』講談社現代新書)