学識,人格ともにすぐれた,道徳的にりっぱな人物。原義は,一般民衆よりも上位にあって,治政の立場に足る人の称。在位の身分ある為政者をさす。〈野人(やじん)〉あるいは〈小人(しようじん)〉の対。とくに政権の主宰者,首長を〈君主〉ともいい,領土と臣民を保有する主権者の〈国君〉,臣下にたいする〈君王,主君〉をもさす。中国古代にあって,貴族階層の男性,“おっと”への敬称,君子偕老(かいろう)の〈君子〉など,のちの第二人称の〈君(くん)〉〈卿(けい)〉にあたる。才徳を兼ねそなえた人士は,孔子を教祖とする儒家学団の修養目標であった。《論語》には,〈仁〉字と匹敵する100余例の〈君子〉の語が見え,そこでは礼楽文化に身をおき,孝悌秩序をわきまえ,仁・義といった思いやりのある,人として実践すべき積極的な教養を身につけた,士人の〈君子〉の出現をねがっている。つまり新しいタイプの知識階層による政権担当者(のちの士大夫官僚)を目ざした。かくて,儒教道徳の修得者と官位ある為政者との一致を,〈君子〉の理想とする考えが,ながく中国を支配した。