宇宙には物質よりも先に意識があった A

拓也は小さな星団の中で、幼い記憶の断片に触れ忘却の深淵に落ちかけた
思考を引き上げる。やがて彼は宇宙の中心にある巨大な静寂に導かれる。
 …そこに在るのは広大に広がる意識そのものの気配だった…

 宇宙の旅の果てにたどり着いた脳内宇宙の持ち主は
 それは人間ではなく宇宙そのものの意識だった...

意識は言葉を持たず、しかし確かな響きで拓也に語り掛ける。
彼の研究ノートに書かれた数式はこの意識が自らを理解するために

自己言及的な模様に過ぎないと告げる。拓也は宇宙そのものの意識と対面し
宇宙が自分を理解するために生み出した断片であると悟る。

自分がここにいるのは単なる偶然ではなく、宇宙が自分自身を観察し、
学び、夢見るために生み出した一つの観測点なのだと...

・・・朝の光が研究室の窓を白く染める...
拓也は机に伏したままゆっくりと目覚める。手元のノートには夢の中で
 見た渦巻く数式の走りが気が残っていた...

彼はそれを見つめながら世界が二重に見える感覚に囚われる。
窓の外の景色もホワイトボードの数式も同じ一枚の布地の織り目のように感じた。

拓也はノートを閉じ、沸かしたコーヒーを一口飲む。研究室の時計はいつも
通りに時を刻むが、彼の内側では時間の流れが少しだけ穏やかになっていた。

 …宇宙が意識を生み、宇宙が意識を映す…

…「夢の中で見た数式がノートに走り書きされている」…
これは意識の啓示なのか… 宇宙が自分を通して見せた幻影なのか…

 彼は夢の中で見た意識の断片をヒントに再び数式に向かう。