洞窟の比喩 @

あれは昨年の9月頃だった...
日本を代表するホテルの孔雀の間、この豪華絢爛たる大広間に千人近い
日本の顔が集まっていた。日本の政財界を代表する大物実力者を招いた
パーティが行われていた。

まさに日本を揺り動かす顔が一堂に揃っていた。各国駐在大使や武官も
顔を見せていた。私は藤堂の顔を探していた。盛んに握手し合ったり、
肩を叩き合ったり、談笑し合う光景の中...

「ほほう… 早いな、分かった」と
相手と談笑している脂ぎった精悍な顔つき・・・ まさしく藤堂だ!

「やあ、君か、久しぶりだな…」
「お久しぶりです。昨年の赤坂の料亭で会って以来ですね」

「そうだったな、此処では何だから... ちよっと、君には話したいことがある。
後で連絡させるから、私の別邸の方に来てくれないか」
「分かりました。では、失礼します」

ーーーあれから数日後、指定された成城の屋敷に来ていた。
屋敷の奥から品の良い老女が姿を見せ、丁寧に腰を折った。
その老女に案内されるまま、庭石伝いに居間に通された。

「旦那様、中沢様でございます」
「おう、よく来たな! そこに腰掛けなさい。
 ところで君とは、もう何回くらい会っておるかね…」

「五度… くらいでしょうか、今夜は核心を突こうかと考えております…」

「そうか、例の話か、
君の期待にこたえられるかどうかはわからんぞ! ワハッハハハ…」

あれこれ三時間半も聞かされたが、
私が聞きたかったことは何一つ聞き出すことは出来なかった。

「バカヤロー!!! こんなのは、記事にはならん!! 
 わかってんのか、バカヤロー!!」帰社後、デスクに怒鳴られた。