それは私と弟が近所の神社でたくさんのアズキを拾ってきた時の悪夢である。


家に帰った私は母にまとわりつき、アズキをいっぱい拾ったので煮て欲しいと頼んだ。
母は着替えをしながら「じゃぁ鍋にお水を入れて、アズキを浸けて置いて」
少し鬱陶しそうにそう言うと、さっさとお風呂場に行き、
お風呂を洗い出してしまった。
私は言われたとおり煮物の鍋に井戸水を汲み、袋のアズキを全部入れ、
また母のまわりをうろついた。
「神社にね。いっぱいあったよ」そう言う私に母は「あんなところに?」と
驚いた。「うん。お米の裏にね落ちてたの」
「へぇ・・・でも、黙って入ったら神主さんに怒られるから、
もうしちゃダメだよ」どうやら母もあそこには米があるので、
おめでたいアズキがあっても不思議じゃないと思ったらしい。
「早く煮て」と急かす私に、ようやく台所にきた母は、
チラリと鍋を見ただけでそれを火に掛け出し、次にお米を研ぎだした。




砂糖はいつ入れるんだろう。もっとよく煮えてからだろうか?
砂糖の壺の中には何匹もの赤蟻が入っていて、
私はそれをつまみ出すのに夢中になった。当時鍵など掛けない、
窓も開けっ放しで平気で留守をする我が家には、
泥棒こそ入らなかったが、家中の至る所に蟻の行列が入り込んでいた。
1ミリもない真っ赤な蟻を全部砂糖壺から追い出したころ、
なにやら異様な匂いが漂いだした。
今までに嗅いだ事のない匂い・・・
何と表現したらいいのか解らない匂いに、流石に母も気づいた。
鍋は沸騰していて匂いはそこからだ。
フタのしてあるソレを慌てて開けた母は次の瞬間、過去に私が
聞いた事もないような悲鳴を上げ、フタを閉じ台所の窓を開けて、
その向こうの雑木林に、鍋を蓋ごと思いっきり投げつけた。
そして、力一杯窓を閉める母・・・・




私は匂いよりも母の悲鳴と諸行に腰が抜けるほど驚いたが、
実際に腰が抜けたのは・・・・・母だった。
ガタガタとふるえ抜けてしまった腰で、這うように台所から逃げる母。
私は瞬間的に母が投げた鍋の中身はアズキじゃないんだと思った。
母はそれからしばらく泣きながら惚けたように天井を見たり、
思い出したように「あーヤダヤダ!!」と言って、自分の身体をさすったり
していたが、やがて立ちつくす私に気が付いて、
睨み付けてきたのである。「あ・・あんた!なんて事すんの!」
いきなりの怒声に私も混乱してワンワン泣き出したが、
母はそれ以上の大きな声で泣き続けていた。。
「全部!全部ゴキブリのタマゴじゃない!」泣きながら怒鳴る母に
「だって・・・・お兄ちゃんが・・・お兄ちゃんが・・アズキだって・・」と
泣きながら私も答えた。