「ココ、そこにいるの?」

かなたんは愛おしい大親友の気配を感じて顔を向けた
生まれつき耳が殆ど聞こえなかった彼女はコロナの後遺症により臭覚と味覚まで失った
更に新居のトイレ掃除の際にあれ程混ぜるなと言われたサンポールに色々混ぜてしまい、塩素ガスによって視力までも奪われた
生きながらにしてこの世界との繋がりを断たれたかなたんだったが、彼女が自身の運命を呪う事はなかった
明るく前向きな性格の所以もあったが、何よりかなたんを支えたのがココの存在だった
彼女の存在を側に感じるだけでかなたんは幸せだった
むしろココという存在の大きさを体感できたこの運命に感謝すらしていた

「……それでね、ボクがコントローラーを木っ端微塵に粉砕してやったの!」

屈託のない笑顔を湛えてあれやこれやと想い出話を語るかなたん
最早ココのリアクションを見る事も聞く事もできないが、彼女の心には腹を抱えて大笑いする親友の姿がはっきりと浮かんでいた

「それでね! それでね!」

深々と白い雪の降り頻る中、かなたんのココ限雑談配信はボルテージを加速していく
白熱灯淡い光に照らされ、恍惚の表情を浮かべて跪くかなたんの姿を認める者がもし在らば、その目にそれはまさしく地上に舞い降りた天使の姿に映った事だろう…





翌朝、公園の隅で錆びた消火栓に寄り添う様に横たわるかなたんの遺体が発見され、ぺこらとみこちは横浜市内の病院で静かに息を引き取った