「おいおめえら!w今日はみっちりしごいてやるからよバカがよぉ」
俺の名は加藤純一。この高校の野球部を引退してからは医療従事者として働きながらも、暇を縫っては度々この部活に顔を出している。
(やれやれ、まったく手のかかる奴らだ。今日も俺の愛のこもったノックを受けさせねえとなあ!)
「おい次サード!もこう行くぞ!」
「…お、お願いしますぅ」
「どりゃあああああw」
俺の放った打球はもこうの低い身長を超え、遥か後方、レフトへ飛んでいった。
「ちょ、ちょっと無理っすようんこちゃあん」
「おいコラもこうてめえ!さっさと拾いに行けよ!そんぐらいしないと一年のおにやからレギュラー取られるぞバカタレがよぉ!」
「…」
(ん?もこうの奴、笑いもせずに無言で拾いに行きやがった?いや、気のせいだろw)

「おいもこう!返事しろ!」
「…お、おっす」
「聞こえねえからもう一回拾ってこいバカがよぉ!」
今度はライト方向へ放つ。もこうはまた、ボールへ向かって走り出した。外野のはんじょうの笑いが聞こえる。
(やっぱり俺のしごきはおもれぇっぺ!)
「じゃあおめぇら、俺は本業で忙しいからよこれで帰るわ、一旦な!各自頑張れよ」
俺はそう言うと、グラウンドを後にした。凄く気持ちのいいノックだった。

スキップに近い歩きで学校を出ようとする俺。その時、おい、と後ろから呼び止める声がした。
「おい純ちゃん、お前一体何してんだ?」
「お、おめえは…」
こいつは高田健志、俺の同級生であり今は教職に就いている。そして、この野球部の顧問だ。
「高田じゃねえか、いや、また練習をつけにきてやったんだよあいつらほんと俺のことスキダカラサァw」
「あのさ純ちゃん、凄く言いにくいんだけど、その必要無いから」
「はあ!?なんで!?」
高田は周りを気にすると、俺から目を背けて言いにくそうに言葉を発した。
「いや、まあ…正直お前そんなノック上手くもないし指導も大雑把で生徒のためにならないっていうか…それに…」
「それに、なんだよ?」
高田はため息をついた。
「それに…お前が来ると生徒がみんな委縮してんだよね」
「てめえ高田、また嘘つきやがったな?俺は野球うめえんだよ、それに俺の弄りはおもしれぇの。盛り上げてやってんだよ」
「お前控えだったじゃん、俺はエースで四番だった、どっちが正しいと思うの?というかもこうに偉そうにしてるけどあいつはこのチームのキャプテン、気配りも凄いし後輩の面倒見もいい。
敬語使わないでも後輩にキレないし…いい奴だからこそお前にも優しくしてるけどさ、このチームを本当に強くしたいならお前は要らないんだよ」
「…あーそうかよバカがよ、やーめた!まあ最近仕事忙しかったし丁度いいや!ひん」
「…お前なら就ける仕事あるから、頑張れよ純ちゃん」
高田は、哀れみを含んだチワワのような目で俺を見送った。