「待ち合わせに遅れてしまいますので、わたくし1人で向かいますわ!」

過保護な老執事の静止を振り切って待ち合わせ場所に走る少女
車の渋滞で予定より遅く待ち合わせ場所に着きそうだ

あの人はもう居るだろうか?それとも私が先に着くだろうか?
服装は大丈夫だろうか?今日は可愛いじゃなく綺麗と言われたくて少し背伸びをしてしまったけど、あの人に褒めてもらえるだろうか?
いつもより早い心臓の鼓動は走っているから?それともあの人と過ごす今夜が楽しみだから?
ふつふつと浮かんでくる疑問に答えは出ないまま、聖夜に湧く街を横目に少女は走り続ける、抑えられない胸の高鳴りと共に

突然、耳に入る不吉な音、ゴムが焼ける匂い、身体に走る鈍痛、初めて感じる浮遊感
全身にくる衝撃と倦怠感、動こうと思っても動かない脚

"行かなきゃ"

動かない身体とは反対に、使命感だけが彼女を動かそうとする
時間は?待ち合わせ場所は?あの人は?彼女の頭にはそれしかなかった
.
.
.
大通りの待ち合わせ場所には金色の二つ括りの髪型が似合う少女が彼女を待ち続けていた
いつからか雪が降り始めても、人通りが疎らになっても、街の灯りが無くなっていっても
ずっと、ずっと、待ち続けていた



「💎ごめんピノちゃん!遅くなっちゃった」
夏の日差し。入道雲。セミの鳴き声。
「今日も暑いからピノちゃんの好きなアイス、買ってきたよ」
「なんだよー反応しろよーカルロピノすやすやで草ww」

アイドル部の解散から数年の時が経ち、あの華やかで忙しい日々は幻だったかのような日常を金剛いろはは過ごしていた。
「懐かしいなあー、ぴのごんの初配信、覚えてる?」

「あの日もこんな暑い夏だったねー。スマブラ楽しかったね」

「いろいろあったけど…アイドル部…みんなどうしてるのかなあ」
遠くの空をぼーっと見あげながら、碧い瞳に涙を貯めた。
「…また来るね、ばいばいピノちゃん」

そう言い残し、いろはは足早に去って行った。


<カルロ・ピノ>
彼女が眠る墓標に供えられたハート型のpinoが、夏の日差しで溶け始めていた。