コロナが終息し、幕張メッセで迎えた「FAVRIC2020」。
休止していたメンバーも復帰し、見事復活したアイドル部が、これまでの集大成と言えるライブをやり遂げた。
スタジアムに響くファンの歓声、どこからか聞こえる「信じて良かった」の声。
和気藹々としながら帰り始めるファンの中、楠栞桜のファンである「内川聖一(38)」は独り幕張メッセの客席で泣いていた。
雀魂公式コラボで手にした栄冠、喜び、感動、そして何より信頼できる他のライバーやファンたち・・・
それを「今の楠栞桜」で得ることは殆ど不可能と言ってよかった。
「どうすりゃいいんだ・・・」根っからの楠栞桜のファンである内川は悔し涙を流し続けた。
どれくらい経ったろうか、内川ははっと目覚めた。
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たい客席の感覚が現実に引き戻した。
「やれやれ、帰って栞桜ちゃんのFAを描かなきゃな」内川は苦笑しながら呟いた。
立ち上がって伸びをした時、内川はふと気付いた。

「あれ・・・?お客さんがいる・・・?」
客席から飛び出した内川が目にしたのは、外野席まで埋めつくさんばかりの観客だった。
千切れそうなほどに楠栞桜の旗が振られ、地鳴りのように楠栞桜の応援歌が響いていた。
どういうことか分からずに呆然とする内川の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「チック、漢気麻雀だ、早く行くぞ」声の方に振り返った内川は目を疑った。
「て・・・天開司さん?」
「なんだクソアゴ、居眠りでもしてたのかあ?」
「な・・・ならおば?」
「なによ内川、かってに奈羅花ちゃんをババア呼ばわりしちゃって」
「柾花音さん・・・」
内川は半分パニックになりながらスコアボードを見上げた。

1番:楠栞桜 2番:柾花音 3番:天開司 4番:奈羅花 5番:ルイス 6番:内川 7番:常闇 8番:天宮 9番:ひなの羽衣

暫時、唖然としていた内川だったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった。
「勝てる・・・勝てるんだ!」
中根から雀牌を受け取り、麻雀卓へ全力疾走する内川、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・

翌日、客席で冷たくなっている内川が発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った。