5-1.1.14. 名誉毀損罪と表現の自由............185

平成 23 年 4 月 経済産業省 情報セキュリティ関連法令の要求事項集より

公然と、具体的な事実をあげて、 その人の社会的評価を傷つければ、
名誉毀損として、民事責任(損害賠償など)や刑事責任(懲 役刑・禁錮刑・罰金刑)が問われる。
しかし、その行為が、1公共の利害(社会全体の利益) に関することで、
2もっぱら公益を図る目的(復讐の目的などは不可)があり、
3真実である ことの証明ができれば、法的な責任は問われない。
ただし、真実であることの証明に失敗して も、
確実な資料・根拠に基づいて真実であると誤信した場合は、
名誉毀損の故意がないことに なり、名誉毀損罪は成立しない。
具体的な事件においては、「確実な資料・根拠」がいったい 何なのかについて問題となる。
なお、最近、ネットにおける名誉毀損事件において、東京地方 裁判所が、従来の基準を変更し、
「真実でないと知りながら発信した場合か、インターネット 個人利用者に要求される水準の事実確認を行わずに発信した場合に、名誉毀損罪が成立する」 とする
新しい判断基準を示した点が注目される(東京地裁平成 20 年 2 月 29 日判決)。

3 最近、ある企業がカルト団体と関係があるかのような書き込みをホームページで行って、 企業の名誉を傷つけたとして、
名誉毀損罪に問われた会社員に対して、東京地方裁判所が無罪 を言いわたした。
裁判では、真実であることの証明がなされたかどうかが争点になったが、
判 決は、「ネットでは利用者が互いに反論できる上、情報の信頼性が低いため、従来の基準は当 てはまらない」と指摘した上で、
「真実でないと知りながら発信した場合か、
インターネット 個人利用者に要求される水準の事実確認を行わずに発信した場合に、名誉毀損罪が成立する」
との新たな基準を示した。
そして、被告人が企業の登記簿や雑誌の記事などの情報収集を行っ ていたことを指摘して
「インターネットの個人利用者として要求される水準の事実確認は行っ ていた」と判断し、無罪としたのであった。
従来の基準ならば、有罪となっていただろうが、 このような結論の背景には、
言論による名誉侵害は言論で回復可能な場合があり、
両者がイン ターネットという対等なメディアを利用できるならば、
被害者はまず言論での名誉回復を図る べきだという発想がある。

(3) 関連法令(政省令・基準)
・ 刑法第 230 条(名誉毀損)
・ 刑法第 230 条の 2(公共の利害に関する場合の特例)
(4) 裁判例
・ 最高裁昭和44年6月25日判決(最高裁判所刑事判例集23巻7号975頁)
・ 東京地裁平成 20 年 2 月 29 日判決(公刊物未登載)

https://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/docs/secgov/2010_JohoSecurityKanrenHoreiRequirements.pdf