【弁護士雑感】ホントのことでも名誉毀損


名誉毀損行為については、民法上その成立要件についてこれを直接かつ明確に規定した条文は存在しておらず、
名誉毀損行為は民法709条の不法行為責任の問題として処理されることになります。※1

他方、刑法においては刑法230条1項に規定があり、構成要件として「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、
その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金に処する」と定められています。

民事上の名誉毀損の成否については、上記のとおりこれを直接かつ明確に規定した専用の条文などがないことから、不法行為の問題として、考えることとなるのですが、
他方で民事上の名誉毀損についてはほぼ確立したといってよい判例法理が存在しているものといえ、決して曖昧な論理により名誉毀損の有無が判断されているわけではありません。

さて、このような刑事上・民事上の名誉毀損なのですが、意外と誤解されていることに「真実を述べたとしても名誉毀損は成立する」というものがあります。

会社において同僚に対して名誉毀損的な表現をしてしまったとして損害賠償請求を受けておられる方で、
当事務所までご相談に来られた方の中にも「本当のことを言っただけなのに、なにを名誉棄損などと騒いでいるのか」というような趣旨のことをおっしゃられる方もおられますし、
インターネット上のコメント欄などではその傾向はさらに顕著です。


しかし、名誉毀損における保護法益は、「人の社会生活上の評価」であるとされており
その人の社会生活上の評価を低下させるにあたって、真実を述べたのか虚偽の事実を述べたのかということは、あまり関係がないものとされているのです。


そのため、たとえ本当のことであっても、一般的に他人に知られたくないような、社会的評価を低下させるような事実をむやみやたらと吹聴することは、
その真実性に関わらず名誉毀損罪の罪責を負うこととなり、民事上も名誉毀損に基づく損害賠償義務を負うこととなりかねない非常に危険な行動であるということが出来るのです。