仕方ない、とでも言いたげにゆっくり腕が下ろされる。その下ろされた腕もまとめて抱きしめるように腕を回す。
ぎゅう、とそのまま抱きしめる。肩口に顔を埋め、息を吸い込む。
落ち着く匂い。何度か深く呼吸をした後、耳をかぷり、あむあむと甘噛みをする。荒くなっていく息を聞きながら、ぺろりと縁を舐め上げる。
んっ、と一際声がはねた。

わざと音を立てて舐めてみたり、軽く吸い付いてみたり。ちゅ、と音を立てて離れ、鏡を見る。
口は軽く開いたまま、浅い呼吸を繰り返す。何も考えられなくなればいい。
そう思いながら少しもこもことした上着のジッパーに手をかける。ゆっくりと下ろし、前をはだけさせた。
薄いシャツの上から胸に触れる。普段ならゆっくりとした鼓動が、少し早く、とくとくと脈打っている。

「早いね?」
「そうもなるじゃろ」
「そっか」

しっかりとしたこの人を乱せたことが嬉しくて満たされた気持ちになった。

「ごめんね」
「なんじゃ、もう終わりか」
「ん?」

ぐいと腕が引っ張られる。バランスを崩し、気がついた時には膝の上に座らされていた。

「次はワシの番じゃ」

視界が闇に包まれる前に見えた鏡には、ぎらりと目を光らせ、獲物を捕らえた獣が映っていた。