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「そろそろ帰りますね」

そう言ってから何分経っただろうか。
帰る前に茶でも飲んでいけとなし崩しに座らされ、目の前に置かれたまだ湯気が見えるお茶。何故か相手は口にしない。
こちらが飲むのを待っているのだろうと思い、いただきますと言って口をつけた。
美味しい。そのまま飲み干した。相手は満足気に笑い、美味いじゃろ、と言う。
ええ、苦味も少なくて飲みやすいですし、香りも良いですね。簡単に感想を言うとさらに笑みを深くした。

すみません、もう帰らないと。そう言って立ち上がろうとした瞬間問いかけられる。
あの方の元へか。答えられない。躊躇っていると不意に身体の力が抜けた。

「ようやく効いたか。すまんの、帰してはやれん」

意識が途切れる直前、震えた声が聞こえた気がした。



気がついて目を開けると、見慣れない部屋にいた。ここはどこだろうかと辺りを見回すと、木で組まれた格子の向こうに今の状態を作った人がいた。

「ここどこ…」
「ワシの屋敷の一番奥じゃ。座敷牢になっておっての、ワシの意に沿わぬ者や鼠を捕らえておくのに使っておる」
「なぜそんな所に…」
「全部答えねばならんか」