>>865
トレードマークの馬マスクを外した彼は、代わりにサッカーボールの柄のネクタイを頭に巻き、寿司折を右手に持った、今では珍しい古き良き酔っ払いスタイルを貫いている。
有体に言って、少女の百年の恋も冷める風体である。

「えーーーーーーっと……人違いじゃないですか?」

「そんなわけないっすよ〜〜。 何たってばあちゃるくんは、私立ばあちゃる学園の学園長にして、アイドル部のプロデューサーっすよ〜〜?
教え子でアイドル部所属のまかのんのことだってちゃ〜んと見てたり見てなかったりするんでね〜〜」

お前は一体何を言っているんだ、と酔っ払い特有の謎理論に困惑する柾。もしかしたら、今の彼は『柾花音』と『猫乃木もち』をいい感じに混同しているのかもしれない。
そうでなければ、彼がこれほどフランクに話しかけてくることはなかっただろう。
とは言え、今の彼は扱いが面倒なことこの上ない。故に、彼女は早々にこの場を立ち去ることを決めた。のだが。

「う、うびばぁ……電脳世界がばあちゃるくんを中心に回っていますね〜〜これ完全にね〜〜」

地面に倒れ込んですっかり目を回している元上司の情けない姿に見て見ぬふりをするほど、彼女は薄情でもなかったので。

「あぁ、もう! しっかりしてください!」

ばあちゃるの体を起こすと、肩から掛けていたバッグを開け、何かないかと中身を探る。すると、彼女はある物を見つけた。
それは楠の部屋から失敬した、あの怪しげな薬品。そして彼女は思い至ってしまったのだ。
今、酩酊している彼にこの薬を使って自分を襲わせれば、楠より早く彼と結ばれることができるのでは、と。彼は恐らく日々の激務で溜まりに溜まったストレスを発散したいだろうし、自分は彼と男女の関係になりたい。
ならば、これは誰も傷つかない名案なのではないか、と。