>>194
風紀の乱れは心の乱れと、得意げに口にしていた過去の自分が今の私を見たら、いったいどんな蔑んだ表情をしてみせるのだろう。
荒れた部屋と乱れたシーツ。肌に張り付いて気持ちが悪いと脱ぎ捨てた制服は、床の上でしわくちゃになってすっかり形を崩してしまっていた。
あぁ、なんてこと。ちゃんとアイロンにかけて干さなきゃだめでしょう、なとり。
そう自分に言い聞かせようとしてみても、鉛のように重たい体はベッドに沈み込んでそこから一歩も動き出す気配がない。
火照った体はまるで長いマラソンを終えた後のよう。呼吸は不規則に乱れて、息をするたびに体の節々が鈍い痛みに苛まれる。
それなのに、そんな苦痛さえ今の私にとっては心地よいと感じられてしまう。自分が傷つけば傷つくほどに、赦されたような気持ちが空っぽの胸を満たしていく。
…いったい、誰に?

「ぁ…」

霞がかった脳裏に“あの子”の後ろ姿がリフレインする。それと同時に、下腹部がじわりと熱を帯びるいやな感触が蘇ってくる。
やめたい。こんなこと、もうやめたい…
そんなふうに悲鳴を上げる心とは裏腹に、右手はなだらかな下腹部を滑り落ち、足の間に潜り込んだ。そろえた指先が内腿を這い、幾度も往復してからショーツの奥へと吸い込まれる。
「は、ぅ…」
恥部はすでに泥沼のようにぬかるんでいた。幾度となく行為を重ね、すっかり綻んだ花弁に指を添えて、触れるか触れないかの強さで焦らしながら弄ると、待ちわびていたかのように入口が開き、その奥から透明な蜜が溢れ出す。
すっかり蕩けきった秘裂は私自身から独立した別個の生物のように蠢いて、与えられる快感を貪欲に貪っていた。
「ゃ……あぁ、ぁ」
遅れて左手が届き、花芯に触れた。硬くなったそれを挟み上げ、指先で転がしていく。
それに呼応するように、膣の内壁に波を送るように右指が蠢き、歪な円の曲線を描く。指を軽く折り曲げて、少し奥まったところの襞を数えるように抉っていくと、いっとう強い刺激が全身を貫いた。
掌から零れ落ちる愛液は泡立って、強烈な女の匂いを辺りに撒き散らしていた。
「…ち、さ…あっ…!」
どこが終わりかもわからない高みを目指して、体は勝手に昇りつめていく。秘裂は弛緩と痙攣を繰り返し、時として突き抜ける鮮烈な刺激に背筋が弓なりに沿り上がる。快楽の波に飲まれかけて、視界がどこまでも真っ白く霞んでいく。
その白霧の向こうに、あの子の姿を垣間見た。輪郭はとても希薄で、今すぐにでも融けて消えてしまいそうだった。
あぁ、待って…お願いだから、待ってよ! どこにも行かないで!
その存在を抱き締めたくて、必死になって手を伸ばしたけれども、しかしこの指先が彼女に触れることはなくて、どんどんと、距離は離れていくだけで…

どうして、この手はあの子に届かないんだろう。
どうして、あの子を掴まえて離さずにいられなかったんだろう…

「あぁ、ぁ、ぃゃ……いやぁっ、あ、ああぁぁぁぁっ――!!」

想像の中で彼女を掴まえようと必死に蠢く指先は、現実においては狂った挙動で秘裂を責め立てている。
…この手は届かない。触れられない。もう取り返しのつくものなんて、一つもない。
それをはっきりと意識した途端に、体の芯がかぁっと熱くなって、なにか得体の知れない感情の塊が奥底の方から湧きあがってくるのを感じた。
後悔だったかもしれない。悲嘆だったかもしれない。愉悦かもしれないし、愛情かもしれなかった。
しかしその正体が何であれ、私の行為を後押しする衝動であることには違いなくて、私の内側を掻き乱す指先は引き裂き壊さんとばかりにいっそう烈しさを増していく。
それはもう快楽を求めるための行為ではなくなっていたけれども、感覚器官としてのそこはとうにおかしくなってしまっているのか、鈍痛さえも快楽に変えて、私の脳髄を焼き切ろうとしていた。
朦朧とする意識の淵に張り付いていた自我の残滓も、今に剥がれ落ちてなくなるだろう。
そうなってしまった時、私の体が、精神が、どこに行ってしまうのかだなんて想像もつかないけれど、この張り裂けそうな胸の痛みがそれで忘れられるというのなら、それでも構わないと思った。

彼女を想うのにも、自分を慰めるのにも、疲れてしまった。
八重沢なとりなんて…もう、なにもかも消えてなくなってしまえばいい…

白濁した愛液には鮮血が混じりはじめていた。それに気付いた瞬間、激痛と快感の折り重なった刺激の波に打たれ、蹴飛ばされたように全身が跳ね上がり、私はかつてないほどに烈しい絶頂に一瞬にして昇りつめた。
脳裏に浮かんでいたあの子の姿が、それと同時に弾けて飛んで。
私の意識も、暗く、重い、深淵の底へと沈んでいった。