「もうASMRはやりたくない。ASMRに疲れたし、バイノーラルマイクも壊した。おまけに配信者も辞めることにしました」

そう語るMさん(30代)は、元人気ASMR配信者だ。かつては毎日ニコ生やYouTubeで、マイク100台を接続していたことも。そしてASMRオタクの間でも一目置かれていた存在だった。

しかし、あることをきっかけに精神的不調に陥り、うつ病と診断され、現在は仕事を休職中だという。

「会社の焼肉飲み会の席で『MさんってASMRに詳しいんですよね』と女の子たちに聞かれて、私のおすすめを教えてあげたんです。
最近のトレンド、マイク、コスパなど様々な側面を考慮して、配信者向けのいいマイクをです。
また90年代からのインターネットの歴史もわかりやすく教えてあげた。知り合いのマイク屋だから私の紹介だと言えばポップガードぐらいオマケしてくれるんじゃないかとも言いました」

Mさんにそんな話を聞いてきたのは会社の20代の女性社員3人だった。だが翌日、会社のランチルームに入ろうとした時、彼女たちがMさんの話をしていたという。

「酷いことを言っていたんですよ。
『ASMRぐらいであんなに得意になれるって終わってる』『彼氏もいないし、ASMRと結婚したんじゃないの』『息が耳舐めの臭いがする』なんて。
その場には私の後輩の男性社員たちもいたみたいで、みんな笑っていた。その日は会社を早退して、家に帰ったらめまいがして」(Mさん)

電話取材を行っていると、この話をしているうちにMさんは嗚咽をもらしはじめた。バイノーラルマイクも全種制覇するなどASMRに尽くし、恋愛、友人を犠牲にしてきただけに、周囲の心ない言葉が響いたようだ。

「ASMRは結局、私になにも与えてくれなかったんです」(Mさん)